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こぶとり

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 107]
 
むかし、あるところに、右のほほに大きなコブのあるおじいさんがいました。動いたり歩いたりすると、ブラブラするので、とても困っていました。

ある日、おじいさんが山で芝を刈っていましたが、日がくれかかってきたので帰ろうしました、すると、空が急にくもってきて、ポツリポツリと雨がふりだしたかと思うと、たちまち大雨になりました。おじいさんは、あわてて、近くにあったほら穴へ逃げこみました。けれども、雨はますます強くなるばかりです。「弱ったなぁ、早くやんでくれないと、日が暮れて、家にもどれなくなってしまう」。やがて真っ暗闇になり、おじいさんは、おそろしくて、耳をおさえてしゃがんだまま、穴の中にじっとしていました。

ま夜中ころになって、やっと雲がはれて、雨がやみました。あたりはシーンとして、なんの音もしません。おじいさんは、心細くてたまりませんでした。そのうち、月が出てきたので、月明かりで山をおりようと考えました。

そのときです。なにやら、ぞろぞろ人が歩いてくるようです。「やれやれ、人がくるようだ。連れができたらありがたい」と、おじいさんが穴からでてみると、人ではなく、こわそうな鬼たちでした。赤鬼、青鬼、一つ目鬼、角のない鬼もいます。おじいさんは、びっくりして、また穴の中にもぐりこみました。鬼たちは、穴の前にくると、火をたきはじめ、たき火のまわりにあぐらをかくと、酒盛りをはじめました。「これはたいへんだ。見つかったらどうしよう」おじいさんは、穴の中で、ブルブルふるえていました。

そのうち、よっぱらった鬼たちが歌いだし、太鼓や笛にあわせて、おどりをはじめました。笑ったり、手をたたいたり、大さわぎです。そのうち、鬼の親分が「なかなか面白い。だが今夜は、だれか、めずらしい踊りをみせてくれないか」といいました。おじいさんは、おどりが大好きでしたから、このとき、出ていこうかと思いました。でも、鬼がこわそうなので、ぐずぐずしていました。「早く、出てこい。一人ぐらいうまい奴がいるだろう」という親分の声に、おじいさんは、もうこわいのを忘れて、飛び出しました。

ほっぺたに大きなコブをつけ、水ばなをたらしながら、♪ スタコラスタコラ スッテンテン ピーヒャラヒャーのスットントン……

大声で歌いながら、伸びたり、かがんだり、手をひろげたり、足をあげたり、グルグルグルとおどりまわります。鬼たちは、「やぁ、人間のじじいだ」「これはめずらしい」「うまいぞ、うまいぞ」といいながら、おじいさんのまわりをおどりはじめ、親分まで楽しそうに加わりました。笛や太鼓の音がいちだんと高くなります。

そのうち、空が明るくなると、鬼たちは急に静かになりました。鬼の親分が、「こんなおもしろいおどりは、はじめてみた。どうか、明日の夜も来てくれないか」「わたしのおどりが気に入ってくれましたか。それでは、またまいりましょう」「きっとくるか」「はい、きっとまいります」「じじいは、ああはいっても、こないかもしれません」「そうだな、よし、このじじいのほっぺたのコブをあずかることにしよう。コブはじじいの宝物にちがいない」というが早いか、いきなりおじいさんのコブをひきちぎりました。ふしぎなことに、コブをとられたのに、少しも痛くありません。

遠くのほうで、コケコッコーとニワトリの鳴き声がきこえると、鬼たちはビックリして、消えて見えなくなりました。、

「ああ、じゃまっけなコブがなくなってありがたい。夢のようだ」家にもどったおじいさんから、鬼の話を聞いて、おばあさんは、「ほんとうによかったですね」と、大喜びでした。

このおじいさんのおとなりに、左のほほに大きなコブのあるおじいさんがいました。やはり、動いたり歩いたりすると、ブラブラするので、とても困っていました。となりのおじいさんが、コブがなくなったといううわさを聞いてやってきました。「鬼にコブをとってもらったって、ほんとうかい?」「ほんとうだとも」「わしも、とってもらいたいものだ。じいさん、鬼のところにいく道を教えてくれないか」「おやすいご用だ」

こうして、となりのおじいさんは、山奥の穴の中にはいり、夜のふけるのを待ちました。ま夜中になると、昨夜の鬼たちが出てきて、酒盛りをはじめ、ワイワイ騒ぎだしました。鬼たちは「ゆうべのじじいは、まだ来ないか」「もう、来てもいい時分だがなぁ」鬼の親分は「じじい、じじい。出てこい」と呼びました。となりのおじいさんは、あんまりこわそうなので、穴から顔だけだして、もじもじしていました。そのうち鬼たちは、おじいさんを見つけて「ああ、そこにいる。早く出てこい。おどりだ、おどりだ」おじいさんは、しかたなく穴から出て、いきなりおどり出ましたが、こっちのおじいさんは、おどりがとってもヘタでした。手をふりながら、あっちへひょろひょろ、こっちへひょろひょろ。

すると、鬼の親分がどなりだしました。「なんだ、このへたなおどりは。きのうはあんなにおもしろかったのに。おい、じじい、コブなんか返すから、とっとと消えてしまえ」と、ふところからコブをとりだすと、ポンと右のほほに投げつけました。おとなりのおじいさんは、あっと驚きましたが、もうしかたがありません。両手で二つのコブをおさえ、泣きながら山をおりたのでした。


「12月17日にあった主なできごと」

1772年 ベートーベン誕生…『交響曲第5番』(運命)『交響曲第9番』(合唱)などの交響曲、『月光』『悲愴』などのピアノ曲のほか、管弦楽曲、歌劇、声楽曲など各方面にわたる作品を遺した、クラシック音楽史上最も偉大な作曲家の一人であるドイツの作曲家ベートーベンが生まれました。

1903年 世界初飛行…アメリカのライト兄弟は、動力をつけた飛行機で、人類ではじめて空を飛びました。

1945年 女性に参政権…衆議院議員の選挙法改正案が公布され、女性が参政権を獲得しました。翌年4月10日に行なわれた総選挙では、82名の女性立候補者のうち39名が当選をはたしました。

投稿日:2013年12月17日(火) 05:13

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)