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泥ぼう名人

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 91]

むかし、あるところに、とても金持ちの男がいました。ある日、この男があるカフェで、友だちとコーヒーを飲みながら、世間ばなしをしていました。「きのう、わしは泥(どろ)ぼうに入られてな、しこたま持っていかれたんだ」「そうか、おれも、このあいだやられたよ」ともうひとりの友だちがいいました。それを聞いた金持ち男は、「君たちは、どうして、そんなに盗まれてばかりいるんだい。おれは、何ひとつ盗まれたことなんかない。君たちんのとこじゃ、泥ぼうさんどうぞお持ちくださいみたいに、物を散らかしてあるんじゃないのか。おれん家(ち)からは、何かを盗みだすなんて、だれにもできないね」と、笑いながら自慢しました。

ところが、彼らのそばに泥ぼう名人がすわっていました。名人は、こっそり、金持ち男のキセルを盗みだすと、すぐに男の家へ行きました。「ご主人の使いでまいりました。市場で、脂(あぶら)とハチミツを買いたいから、銅の器をふたつもらってきてくれということです」。奥さんは、ご主人のキセルを見るとすぐに信用して、大きな壺をふたつ渡しました。

名人は、すぐに市場へいき、ひとつの壺に脂を、もうひとつにハチミツを入れて、奥さんへ届けました。それからしばらくして、もう一度ドアをたたくと、「また、ご主人のいいつけでまいりましたが、すぐに金貨を千枚渡すようにといいつかりました。金の細工師のところで、贈物を買うのだそうです」奥さんは、その言葉を信じて、金貨を千枚入れた財布をわたしました。泥ぼう名人は、それを受け取ると、どこかへ姿を消しました。

金持ち男は、まだカフェにいましたが、キセルを探してもどこにも見つかりません。しかたなく、家に帰り、奥さんにたずねました。「おれのキセルはいったいどうしたんだろう」「なにをおっしゃるんです。使いの男に、証拠として持たせたんじゃないですか」と、奥さんは、笑いながらいいました。「おれは、使いなんかだしてないぞ。で、その男はどこへ行った」「あんなこといって! 壺をふたつよこせというから、出してやったら、ここにある脂とハチミツを買ってもどってきましたよ。すると、しばらくして、金貨を千枚渡せというんで、出してやったじゃありませんか」

「そいつは、泥ぼうだ!」と、ご主人は叫ぶと、泥ぼうをさがそうと、家を飛びだしました。するとまもなく、変そうした泥ぼう名人が、奥さんに大声で呼びかけました。「奥さん早く、ご主人の金の刀をよこしてください。泥ぼうをとっつかまえたんで、首を切り落としてやるんですって」奥さんは、大喜びで、夫の金の刀を、窓から出して渡しました。泥ぼう名人は、こんどこそ、価値の高い宝ものをもったまま、町の外へ逃げました。

夕方になって、へとへとになった金持ち男が、腹をすかせて家にもどると、「あなた、泥ぼうをつかまえられてよかったですね。それで、お金はとりもどせたの?」「泥ぼうなんか、つかまえられやせん。だれがそんなこといった?」「だって、あなたは、人をよこして、金の刀を出してくれっていったじゃないの」ご主人は、怒り狂いましたが、もう、どうしようもありませんでした。

その後、金持ち男が、泥ぼうに何かをとられたか知りませんが、泥ぼうに盗まれた人のことを、ばかにしなくなったことだけはたしかです。


「7月10日にあった主なできごと」

1509年 カルバン誕生…フランスの宗教改革者のカルバンが生れました。「カルバン派」は、オランダ、イギリス、フランスなど産業の盛んな地域に広まりました。

1821年 大日本沿海輿地全図…伊能忠敬が中心となって制作した日本全土の実測地図「大日本沿海輿地(よち)全図」が完成し、江戸幕府に献上されました。

投稿日:2013年07月10日(水) 05:23

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)