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もえあがる小屋

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 104]
 
むかし、ある海岸近くに小高い丘がありました。この丘の小屋に、病気でねたきりのおばあさんが一人きりで住んでいました。

ある秋の寒い日の午後のこと。この日は、浜辺でにぎやかなお祭りがある日でした。町のひとたちは一人残らずやってきて、楽団の音楽にあわせ、ダンスに興じたり、歌をうたったり、テント張りのお店もたくさん出て、飲んだり食べたり、年に一度の秋祭りを楽しんでいました。

にぎやかな音楽や歌声は、小屋に寝ているおばあさんにも聞こえてきました。やがて夕方近くになって、おばあさんはベッドの中から、窓越しに海辺のほうをながめました。ふと気がつくと、遠くの地平線に、小さな黒い雲がひとつ、ぽつんと現れているのに気づきました。それを見たとたん、はっとしました。おばあさんの亡くなった旦那さんは船乗りでしたから、おばあさんも海のことを、よく知っています。(たいへんだ。もうすぐ嵐がやってきて、高潮が押し寄せてくる。そうすれば、海岸で遊んでいる人たちは、波に巻きこまれて、亡くなる人もでるにちがいない。ああ、わたしが見たものを、だれも気がつかなかったらどうしよう)

こう思ったおばあさんは、気が気でなりません。自分が知らせてあげなくてはと思うと、ふしぎにも、身体に力がわいてきて、1年近くもベッドに寝たきりだったのに、窓の近くまで、はっていくことができたのです。やっとの思いで窓をあけ、思いきり大声をあげました。でも、とても海岸まではとどきません。そこで、近くにあった棒で、戸をたたいたり、窓をたたいたりして合図しましたが、陽気にさわいでいる人たちにとどきそうもありません。ガシャンと、窓のガラスをこわしてもだめでした。

雲はいよいよ気味悪く、真っ黒にふくれあがってきました。どしゃぶりの雨がふりだし、高潮がおしよせてくるまで、もう少しの時間もありません。このとき、おばあさんはひらめきました。(そうだ、この小屋に火をつけよう) おばあさんは、ストーブのところまではっていき、火を取り出すと、ベッドのワラに火をつけました。そして、やっとの思いで、戸口の外まではいだし、そこにたおれてしまいました。

ほのおは、すぐに窓から吹き出して、屋根へ燃えうつり、いちだんと強くなってきた風にあおられて、燃え上がりました。「火事だぁ!」「火事だぞう!」浜辺にいた人たちは、暗くなった空に真っ赤にもえあがった火に気がつき、高台をかけのぼりました。そして、おばあさんの小屋に飛んできて、火の粉をかぶっているおばあさんを、安全なところに運びました。

この時、海岸にはすさまじい嵐がふきまくり、カミナリの稲光とゴロゴロという音とともに高潮がおしよせ、海岸のテントの店も、酒樽もなにもかも、おそろしい波の中に呑みこまれていきました。けれども、町の人たちはみんな岸にあがり、おばあさんの小屋にむかっていたために無事でした。

こうしておばあさんは、命がけで、町の人たちを救ったのでした。


「11月13日にあった主なできごと」

1523年 インカ帝国皇帝捕えられる…15世紀から16世紀にかけてペルー南部に栄えたインカ帝国は、クスコを中心に石造建築や織物、金銀細工など優れた文明を築きましたが、この日スペインのピサロは、帝国のアタワルバ皇帝をだまして捕えました。翌年インカ帝国は滅亡、スペインは南アメリカ大陸の大半を長い年月支配することになりました。

1614年 高山右近国外追放…織田信長、豊臣秀吉、徳川家康につかえた高山右近は、築城術もたけ茶道にも長じたキリシタン大名でしたが、禁止されたキリスト教を捨てなかったためにこの日国外追放、40日後にマニラで亡くなりました。

投稿日:2013年11月13日(水) 05:41

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)