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金の毛が3本はえた鬼

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 86]

むかし、ある村の貧しい夫婦に、男の赤ちゃんが生まれました。頭に「幸せなぼうし」といわれる膜をつけていたので、占い師は「16歳になったら、王さまの娘を妻にするだろう」と予言しました。このことを耳にした悪い心の王さまは、おもしろくありません。変装して男の子の家をたずねてこういいました。「おまえさんたち、この子を私にあずけなさい。王さまになってもはずかしくないように育ててあげよう」。はじめ両親は断りましたが、たくさんのお金をくれるというので、「幸運な子どもなのだから、そのほうが万事うまくいくにちがいない」と、子どもを渡しました。

王さまは子どもを箱に入れ、馬を走らせ、深い川まで運んで川にほうりこみました。「これで、わしの娘にふつりあいな結婚の心配をせずにすむわい」。ところが、その箱は沈まず、王さまの都の近くまでただよっていくと、水車にひっかかりました。運よく水車番がそこにていて、箱に気づいて引っぱりあげました。大きな宝物かと思いましたが、開けてみると、中には元気な赤んぼうが、にこにこ笑っています。そこで水車番は、子どもをほしがっていた粉屋夫婦に持っていくと夫婦は大喜び、「神さまがこの子を授けてくださった」といって、赤ちゃんをとてもたいせつに育てました。

それから、あっというまに16年がすぎました。ある日、すばらしい若者がいるといううわさを聞いた王さまが粉屋のところへやってきて、「あの若者は、おまえたちの子か」とたずねました。「はい。16年前、流れてきた箱に入っていたので、それ以来、息子として育ててきました」と粉屋は答えました。 それで王さまは、その若者は自分が川にすてた子だとわかり、「わしの妃への手紙を書くから、この若者にとどけてもらえないだろうか」と、金貨を二枚渡しながらいいました。粉屋はすぐに若者に準備をさせました。それから王さまはお妃に手紙を書きましたが、そこには「この若者はわが家のわざわいとなる、わしが帰るまでに殺して埋めてしまえ」と書いてありました。

若者はこの手紙を持って出発しましたが、道に迷い、暗くなって大きな森に来ました。まっ暗闇の中に小さな明かりが見えたので、小屋の中に入ると、老婆がたった一人で暖炉のそばに座っていました。若者を見ると、「かわいそううな子だよ。おまえは泥棒の隠れ家に来てるんだよ、帰ってきたら泥棒たちはおまえを殺してしまうかもしれない」と老婆はいいました。「こわくなんかないよ。だけど、とても疲れているから、これ以上どこにもいけない」と、若者は床の上に寝そべって眠ってしまいました。

その後まもなく、4人兄弟の泥棒たちが帰ってくると、「そこで眠っているのは誰だ?」「ああ、道に迷ったむじゃきな若者だよ。かわいそうだから入れてやったのさ。お妃に手紙を持っていかなくちゃいけないとかいっていた」と老婆は答えました。泥棒たちはあの手紙を見つけると、さすがにかわいそうに思ったのか、上の兄が「この若者は、わしの眼鏡にかなったもの。すぐに姫と結婚させよ」と、手紙を書き変えたのです。それから、翌日まで静かに眠らせておき、若者が目覚めると、正しい道を教えてあげました。

お妃が手紙を受け取って読むと、すてきな知らせに大喜びしました。姫は若者を見ると、ひと目で恋に落ちてしまったのです。書かれた通りにしてやり、壮大な結婚式の前祝いが行われました。ところが、そこへ王さまが帰ってきましたから、さぁ大変。でも、すぐに悪い考えを思いつきました。「姫と結婚する前に、おまえは地獄へ行って、鬼の頭から金色の毛を3本ぬいてこなくてはいけない」といいました。すると若者は、「金の髪の毛をとってきます。私は鬼など恐れません」と答えると、姫に別れを告げて、旅に出発しました。

道を行くと大きな町に着きました。門番が「おまえは、どんなことを知っているか」とたずねると、若者は「何でも知ってるよ」と答えました。「それじゃ、市場の泉が昔はワインを出したのに、乾いて、今は水すら出さないのはどうしてか教えてくれ」といいます。「教えてやろう。ただ帰りまで待ってくれ」と若者は答え、さらに進んで別の町に着くと、そこでも門番が「どんなことを知っているか」とたずねました。若者は「何でも知ってるよ」と答えると「じゃあ、町のりんごの木が昔は金のりんごを実らせたのに、今は葉っぱもださないのはどうしてか教えてくれ」といいました。「教えてやろう。ただ帰りまで待ってくれ」と若者は答えました。

それからまた進んでいくと、広い川に着きました。渡し守は「どんなことを知っているか」とたずねると、若者は「何でも知ってる」と答え、「じゃあ、おれがどうしていつも行ったり来たり、船をこいでいなくてはいけないのか教えてくれ」といいました。「教えてやろう。ただ帰りまで待ってくれ」と若者は答え、 川を渡ると、地獄の入口に着きました。そこは黒くて中はすすけていました。鬼は留守でしたが、鬼のおばあさんが「何の用だい?」とたずねると、「鬼の頭から金の髪の毛を3本とりたいんだ。さもないと、妻になるはずの女性と結婚できないんだ」と若者は答えました。「金髪3本? そりゃいやがると思うよ。もう残り少ないからね。鬼が帰ってきておまえを見つけると、ただじゃおかないよ。でもなんとか助けてあげたいものだ。そうだ。おまえを小さくしてあげるから、私の服の折り目に入ってなさい」といいました。「わかりました。そのほかに知りたいことが3つあるんです。市場の泉が昔はワインを出したのに、乾いて、今は水すら出さないのはどうしてか、りんごの木が昔は金のりんごを実らせたのに、今は葉っぱもださないのはどうしてか、渡し守はどうしていつも行ったり来たりこいでいなくてはいけないのか」「そりゃあむずかしい質問だね。だけど、静かにして、私が3本の髪の毛を引きぬくとき、鬼がいうことをよく聞くんだよ」とおばあさんは答えました。

夜になると鬼が帰ってきて、「人間の肉の匂いがするぞ」といいながらあっちこっちをさがしましたが、何もみつかりません。おばあさんは孫を叱り、「なにをいってるんだい。いるわけないだろ。さぁ、すわってごはんをお食べ」とおばあさんはいいました。鬼は食事が終わると、つかれて頭をおばあさんの膝にのせ、少しシラミをとってくれるよういいました。それからまもなくいびきをかき、ぐっすり眠りこみました。するとおばあさんは、1本の金の髪の毛をつかんで抜き、自分のそばにおきました。「わあ、何をやってるんだ」と鬼は叫びました。「悪い夢をみてたんだよ」とおばあさんがいうと、「じゃあ。どんな夢だ」と鬼がききました。「市場の泉が昔はワインを出したのに、乾いて、今は水すら出さないという夢をみたのさ。何が原因なのかね」「あ、はは、泉の石の下にヒキガエルがいるのさ、その蛙を殺せばまたワインがでてくるのさ」

おばあさんはまたシラミ取りをして、鬼が窓がゆれるほどいびきをかいたので、2本目の髪の毛をひきぬきました。「何をやってる」と、鬼はおこりました。「悪く取らないでおくれ。夢の中でやったのだから」とおばあさんはいい、「ある王国でりんごの木が昔は金のりんごを実らせたのに、今は葉っぱさえもださないという夢を見たんだよ。どうしてかね」とおばあさんがきくと「あ、はっは、ネズミが根をかじっているからさ。それを殺せばまた金のりんごを実らせるだろうよ。だけど、ばあさんの夢はもうたくさんだよ。また眠っているのをじゃましたら、なぐるからな」と鬼は答えました。

おばあさんはやさしく話しかけ、もう一度シラミ取りをしたので、鬼はとうとう眠っていびきをかきました。それで3本目の金髪をつかんで引き抜きました。鬼はとび上がってうなり声をあげ、おばあさんを殴ろうとしました。「悪い夢はしかたがないじゃないか」「じゃあ、どんな夢だよ」と鬼は興味をもっていいました。「渡し守が一方からもう一方へいつも漕いでいるのに、どうして解放されることはないのかぐちをいってる夢さ」「まぬけだな。だれか来て渡りたがったら、渡し守はさおをそいつの手に渡しさえすればいいのにな」おばあさんは3本の金髪を抜いてしまい、3つの質問に答が出たので、鬼をほうっておき、鬼は朝まで眠りました。
 
鬼がまたでかけてしまうと、おばあさんは服の折り目から若者を取り出して、大きくしてくれました。「さあ、3本の金髪をあげるよ。鬼が3つの質問に答えたのを聞いていたね。おまえは望みのものをもう手に入れたんだ、お帰り」若者は助けてくれた礼をいい、万事とてもうまく運んだことに満足して、地獄を去りました。

渡し守のところにくると、渡し守は約束の答を待っていました。「次にだれかが川を渡してもらうためにきたら、さおをその人の手に渡せばいいんだ」と。実らない木が立っている町に着くと、門番に「木の根をかじっているネズミを殺せば、再び金のりんごが実るよ」とつたえると門番は感謝し、お礼に金を積んだ2頭のロバをくれました。、泉が渇く町の門番には、「ヒキガエルが泉の中の石の下にいるんだ。それを探して殺せば、泉はまたたくさんワインをわかすだろう」とつたえると、門番は感謝し、やはりお礼に金を積んだ2頭のロバをくれました。

とうとう若者は、再び王女と会い、王女は、どんなに首尾よくやれたか聞いて心からうれしく思いました。王様には、求められた3本の金髪を持っていきました。金を積んだ4頭のロバを見るととても満足し、「すべての条件を満たしたからには、娘を妻としなさい。しかし、むこ殿よ、教えてくれ。あの金はどこからもって来たのだ」とたずねました。「船をこいでもらい川を渡り、向こう側に着くと、浜辺には砂の代わりに金があったのです」と若者が答えると王様は、「わしもとれるかな?」と、熱心に聞きます。「好きなだけとれます。川に渡し守がいますから、川を渡らせてもらってください。そうすれば向こう岸で袋につめられます」と答えると、よくばりな王様は大急ぎで出発しました。川に来ると、渡し守を手まねきして、向こう岸に渡すようにいいました。ところが、岸につくと渡し守は、王様の手にさおを渡し、岸にとびおりると、どこかへ行ってしまいました。

このときから、王さまは渡し守となり、今もギッチラギッチラこいでいるんだって。


「5月30日にあった主なできごと」

1265年 ダンテ誕生…イタリアの都市国家フィレンツェに生まれた詩人で、彼岸の国の旅を描いた叙事詩『神曲』や詩集『新生』などを著し、ルネサンスの先駆者といわれるダンテが生まれました。

1431年 ジャンヌダルク死去…「百年戦争」 でイギリス軍からフランスを救った少女ジャンヌ・ダルクが 「魔女」 の汚名をきせられ、処刑されました。

投稿日:2013年05月30日(木) 05:55

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)