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ホレのおばさん

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 79]

あるところに、ご主人と死にわかれた未亡人がいました。娘を二人もっていて、ひとりはきりょうが悪い上になまけ者でしたが、もう一人は美しい上に働き者でした。けれども、母親は、きりょうの悪いなまけ者のほうばかりをかわいがりました。自分のほんとうの娘だったからです。美しいほうの娘は、家じゅうの仕事をひとりで引き受けて、ごみだらけ灰だらけになって働かなくてはなりませんでした。

かわいそうな娘は、毎日、道ばたの井戸のそばにすわって、糸を紡がされました。あんまり紡ぎすぎて、指から血が出るほどでした。そんなある日、糸がすっかり血だらけになったので、娘は、糸巻きを持って井戸にかがみ、血を洗おうとしました。その時、糸巻きが手から飛びだして、井戸の底に落ちてしまいました。娘は泣きながら母親に報告しました。すると、母親は厳しく叱りつけた上に、「おまえが糸巻きを落としたんだから、自分で取っておいで」といいました。

しかたなく娘は、井戸ばたへ引き返しましたが、どうしたらよいかわかりません。しかたなく、糸巻きをとりに、井戸に飛びこみました。どのくらいたったことでしょう。ふと気がつくと、そこは美しい草原で、お日さまが輝いて、たくさんの花が咲いていました。草原を歩いていくと、パンがいっぱい入っているかまどがありました。かまどの中でパンが叫んでいました。「ああ、早く出して! 出してくれないとこげちゃうよ、もうとっくに焼き上がってるんだから!」娘は大急ぎで、パンを残らず外に出してやりました。

それから娘は、また先へ行くと、りんごがいっぱいなっている木のところへきました。木が娘に呼びかけます。「ああ、わたしをゆすってちょうだい! もう、みんな熟しているのだから!」そこで娘は、木をゆすりました。すると、りんごは雨のように落ちました。娘はりんごが残らず落ちてしまうまで木をゆすり、落ちたりんごをひと山に積み上げて、また先へ行きました。

そのうち娘は、一軒の小さな家にたどりつきました。中からおばあさんがのぞいています。とても大きな歯をもっているおばあさんなので、娘はこわくなって、逃げようとしました。するとおばあさんが、後ろから呼びかけ、「こわがらなくていいんだよ、私のところにいなさい。家の中の仕事をちゃんとやってくれたら、しあわせにしてあげるからね。私のベッドは、とくにきれいにしておくように。ときどき、羽が舞い飛ぶくらい羽布団を振るようにね。そうすると、人間の世界に雪が降るのさ。私はホレのおばさんだよ」といいました。

おばあさんが優しく話してくれたので、娘は安心して、おばあさんの家で働きました。そして、おばあさんの満足するようにかたずけ、羽布団をいつも力いっぱい振るって、ふかふかにしておきました。そのために、娘はおばあさんのところで幸せでした。しかられることもなく、毎日ちゃんとしたものを食べることができたからです。

娘はこうして長い間ホレのおばさんのところにいましたが、そのうちなんとなく、もの悲しくなってきました。ここは家にいるよりも千倍も良かったのですが、それでも生まれ故郷が恋しい病になって、とうとうおばあさんにいいました。「おばあさん、ここではとても良くしていただいてますけど、それでも、もうしんぼうができません」「そうかい。おまえはとてもよく働いてくれたから、上の世界へ連れて行ってあげようね」

そういうと、ホレのおばさんは、娘の手を取って大きな門の前に連れて行きました。門が開かれ、娘がその下に立つと、激しい金の雨が降ってきました。金はみな娘にくっついたので、体中がすっかり金でおおわれました。「それはおまえのものだよ。よく働いてくれたからね」と、ホレのおばさんはいい、糸巻きも返してくれました。

門が閉じられると、娘は、家からそう遠くないところにいました。娘が家に入ると、井戸の上にとまったオンドリが鳴き立てました。「コケコッコー、うちの金のお嬢さまが、お帰りだよ」娘はお母さんのところへいくと、金でおおわれて帰ってきたので、ちやほやして迎えてくれました。

母親はどうやってそんな宝を手にしたのか聞き出すと、自分の娘にも同じ幸せを手に入れさせたいと、考えました。こうして、なまけ娘も井戸の中に飛びこみました。この娘も美しい草原で目を覚まし、同じ小道を先へと歩いていきました。娘がパン焼きかまどのところまで来ると、やはりパンが「ああ、早く出して! 出してくれないとこげちゃうよ、もうとっくに焼き上がってるんだから!」と叫びました。でも、なまけ娘は「手を汚すなんて、まっぴらごめん」と、去っていきました。

あのりんごの木のところに来て、「ああ、わたしをゆすってちょうだい! もう、みんな熟しているんだから!」と木が叫んでも、「冗談じゃないわ。わたしの頭の上に落っこちでもしたら、どうするのよ」と答えて、先へ歩いていきました。ホレのおばさんの家まで来ると、こわがらず、すぐに雇われました。

最初の日はがまんをして、ホレのおばさんのいう通りにしました。ホレのおばさんがくれるはずの金のことを考えたからです。けれども翌日にはもうなまけはじめ、三日目には、朝になっても起きようともせず、ホレのおばさんのベッドもこしらえず、羽布団も振りません。

そんなわけで、ホレのおばさんはいやけがさして、娘を首にしました。なまけ娘は喜んで、こんどは金の雨が降ってくると思いました。ホレのおばさんは、なまけ娘も門のところに連れて行きましたが、娘が門の下に立つと、金ではなく、どろどろのヤニを、大きなお釜いっぱいぶちまけました。「これがおまえの仕事の報いだよ」というと、門を閉じてしまいました。

なまけ娘は、すっかりどろどろのヤニにまみれて、真っ黒のベタベタのまま家に帰りました。井戸の上にとまっていたオンドリはこれを見て鳴き立てました。「コケコッコー、うちのきたないお嬢さんの、お帰りだよ」

どろどろのヤニは、べったりくっついたまま、なまけ娘が生きているあいだじゅう、どうしてもとれませんでした。


「4月4日にあった主なできごと」

1284年 北条時宗死去…鎌倉幕府第8代執権で、はるかに国力の勝る元(中国とモンゴルを含む大帝国)の2度にわたる襲来を退けた北条時宗が亡くなりました。

1615年 大坂夏の陣…前年の大坂冬の陣で大坂城を攻め落とせなかった徳川家康は、講和を条件に外堀を埋めさせて防備が弱くなったところへ、諸大名の兵20万人を率いて攻め入り、落城させました。豊臣秀頼と生母淀君は自害し、ここに豊臣家は滅びました。

1968年 キング牧師死去…アメリカの黒人指導者キング牧師は、白人による人種差別撤廃する法律を認めさせ、黒人の権利と自由を求める公民権運動を進めたことでノーベル平和賞を受賞しましたが、これに反発した白人により、この日演説中に暗殺されました。

投稿日:2013年04月04日(木) 05:47

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)