たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 76]
むかし、ある小さな村に、正直じいさんと欲ばりじいさんが、隣りあって住んでいました。正月のはじめ、正直じいさんは、欲ばりじいさんに、正月のあいさつに行きました。「おめでとうございます。今年は、いい年になるといいですね」「さぁ、いい年になるか、悪い年か、わかんねぇな」「どうです、どうなるか、初夢でうらなってみませんか」ということになって、初夢を見たら、それがどんな夢だったかを、話しあう約束をしました。
正月二日の夜中のこと。正直じいさんは、真っ赤な炎の前に座っていると、大判小判がザラザラ降ってくる夢を見ました。さっそく正直じいさんは、この初夢の話を欲ばりじいさんにしました。欲ばりじいさんは、夢を見ることができませんでしたが、それを聞くと、くやしくなってこういいました。「おらの見た夢は、おまえと違って、地から福を授かる夢じゃった」「そうですか、どっちも良い夢じゃないですか、かなうといいですのぉ」
それから、しばらくたったある日のことです。正直じいさんが畑を耕していると、カチンと、くわが何かにあたりました。土をのけてみると黒い壺が出てきました。ふたをとると、中には大判小判がぎっしりつまっています。「こりゃぁ、隣のじいさんのいっとった地福に違いない。知らせてやらにゃならんのう」正直じいさんは、隣の家に走っていきました。「じいさ、じいさ、あんたのいっとった地福じゃ。早よう行って取って来なせぇ」欲ばりじいさんは、くわを持って教わった場所に飛んで行きました。正直じいさんは家に帰ると、ばあさんに壺の話をしました。「それは、よかったですねぇ、おじいさん」「おぉ、隣のじいさは今ごろ喜んでおるじゃろう」と、二人は、いろりにあたりながら、楽しそうに話しました。
いっぽう、欲ばりじいさんは畑に行くと、壺のある場所を探しまわりました。畑の真ん中に、掘り返したあとがあり、そこにあった壺のふたを開けてみると、なんと、中にはヘビがいっぱい入っていて、うにょうにょ動いているではありませんか。「ひゃーっ!」驚いた爺さは尻もちをつき、ふたをつかんであわてて閉めました。「あのくそったれじじい! よくもこんなものを!」顔を真っ赤にして怒りながら、壺を背おって帰ると、隣の家にはしごをかけ、壺を持って屋根の上にあがりました。煙り出し口から家の中をのぞくと、正直じいさんとおばあさんが、いろりの前でポカポカと火にあたっています。
「あのばかったれめ、人をだまして、へらへら笑っとる」欲ばりじいさんは、壺のふたをとると、中のものを、正直じいさんめがけて落としました。すると、壺の中からこぼれたのは、ヘビではなく、キラキラ光るものでした。それは大判小判で、正直じいさんとばあさんのそばに落ちていきました。「な、なんじゃぁ? そうじゃ、ばあさん、これが初夢で見た大判小判じゃ」二人は目をパチクリさせました。「隣のじいさは地福(ちぶく)を授かったが、わしらは天福(てんぷく)を授かった」「よかったですねぇ、おじいさん」
その晩から、正直じいさんは、村いちばんの長者になりました。めでたし、めでたし。
「3月12日にあった主なできごと」
1876年 日曜休日制…日本の官庁は、明治時代以降、毎月31日を除いて、1と6のつく日を休日としていましたが、欧米にならって日曜を定休、土曜を半休とすることを決めました。
1925年 孫文死去…「三民主義」 を唱え、国民党を組織して中国革命を主導、「国父」 と呼ばれている孫文が亡くなりました。
1945年 アンネ・フランク死去…『アンネの日記』を書いたことで知られるアンネ・フランクが、ナチの収容所で亡くなりました。