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アナンシと五

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 75]

昔むかしある島に、アナンシという悪ものが住んでいました。アナンシは、いつもは人間ですが、時どきクモになったりします。このアナンシの家の近くに、「五」という名の魔女が住んでいました。「五」は自分の名前が大きらいで、もっといい名前で呼んでもらいたいのに、みんなはやはり「五」って呼ぶので、いつも腹を立てていました。

ある朝のことです。アナンシは、クモになって魔女の家のへいの穴からそっと中をのぞいてみると、魔女は大ナベいっぱいに、魔法の草をグツグツ煮ているところでした。ナベから煙が立ちはじめると、魔女はつえを振り上げ、呪文(じゅもん)をとなえます。「アーブラカタブラ ツンダララ……『五という言葉をいうやつは、その場でただちに息たえよ!』」「おう、いいことを聞いた。こいつをうまく使えば、ごちそうにありつけるぞ」アナンシは、にやりと笑いました。

あくる朝、アナンシは小川にそった道へやってきました。市場へ買物に行くものは、必ず通る道です。アナンシはサツマイモの山を五つ、道ばたにつくって、だれかが通りかかるのを待っていました。そこへ、アヒルの奥さんが通りかかりました。アナンシは、アヒルの奥さんに声をかけました。「おはよう、色白のアヒルの奥さん。ごきげんいかが?」「ありがとう、アナンシさん、おかげさまで。あなたはいかが?」「ええ、それがねぇ、アヒルの奥さん」アナンシは、悲しそうな顔をして見せました。

「ごらんの通り、サツマイモを作ったんですがね。頭が悪いものですから、いく山とれたか数えられないんですよ。すみません、ちょっと代わりに数えてみてくれませんか?」「いいですとも」アヒルの奥さんは、お尻をふりふりサツマイモの山を数えはじめました。「一、二、三、四、」アヒルの奥さんが「五」といったとたん、魔女ののろいにかかって死んでしまいました。「うっしっしっし。いただきまーす!」アナンシは、アヒルの奥さんを、頭から丸ごとペロリと食べてしまいました。

そしてまた、道ばたにすわって、だれかが通るのを待っていました。そこへウサギの奥さんが、長い耳をパタパタさせながら通りかかりました。アナンシは、ウサギの奥さんに声をかけました。「おはよう、耳のすてきなウサギの奥さん。ごきげんいかが?」「ありがとう、アナンシさん、おかげさまで。あなたはいかが?」「ええ、それがねぇ、ウサギの奥さん」アナンシは、また、悲しそうな顔をして見せました。

「ごらんの通り、サツマイモを作ったんですがね。頭が悪いものですから、いく山とれたか数えられないんですよ。すみません、ちょっと代わりに数えてみてくれませんか?」「いいですとも」ウサギの奥さんは、長い耳をしとやかにふりながらサツマイモの山を数えはじめました。「一、二、三、四、」ウサギの奥さんが「五」といったとたん、魔女ののろいにかかって死んでしまいました。「うっしっしっし。いただきまーす!」アナンシは、ウサギの奥さんを、骨ひとつ残さず食べてしまいました。

しばらくすると、こんどはハトの奥さんが、かわいいピンクの足をツンツンしながらやってきました。「おはよう、ピンクの足のかわいいハトの奥さん。ごきげんいかが?」「ありがとう、アナンシさん、おかげさまで。あなたはいかが?」「ええ、それがねぇ、ハトの奥さん」アナンシは、また、また、悲しそうな顔をして見せました。

「ごらんの通り、サツマイモを作ったんですがね。頭が悪いものですから、いく山とれたか数えられないんですよ。すみません、代わりにちょっと数えてくれませんか?」「ええ、いいですとも」ハトの奥さんは、かわいいピンクの足でサツマイモの山にとび乗りました。そして山から山へと、とび移りながら、数えはじめました。

「一、二、三、四、それから、わたしの乗っている分」それを聞いて、アナンシはくやしがりました。「ハトの奥さん、あんたの数え方はおかしいですよ」「まあ、ごめんなさい、それじゃ、もう1回数えてみるわね」ハトの奥さんは、また数えました。「一、二、三、四、それから、わたしの乗っている分」。アナンシは、歯をむき出して怒りました。「違う、ちがうよ! そんな数えかたじゃ、だめ!」「ほんとうにごめんなさい。もう一回やってみますわ」心やさしいハトの奥さんは、また数えなおしました。「一、二、三、四、それから、わたしの座っている分」

アナンシは、顔を真っ赤にして怒りだし、思わず叫びました。「何てバカなハトだ! いいか、こうやって数えるんだ。一、二、三、四、」そして「五」といったとたん……、アナンシはバッタリ倒れて、死んでしまいました。


「3月7日にあった主なできごと」

BC322年  アリストテレス死去…古代ギリシアの哲学者・学者・教育者・著述家として、さまざまな学問を集大成したアリストテレスが亡くなりました。

1608年 中江藤樹誕生…人を愛し敬う心を大切にし、母に孝養をつくして 「近江聖人」 とその徳望が慕われた江戸時代の儒学者 中江藤樹が生まれました。

1778年 ハワイ島の発見…イギリスの探検家クックがハワイ島を発見しました。翌年に上陸すると、原住民たちは神の化身として厚くもてなしたといわれています。なおハワイは、王国、共和国を経て、1898年にアメリカに合併されています。

投稿日:2013年03月07日(木) 05:50

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)