たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 68]
むかしある寒い国に、夫婦二人で暮らしている家がありました。ご主人は長い冬にそなえて、おけにいっぱいバターをこしらえると、おかみさんにいいました。「さぁ、おいしいバターができあがったぞ。これで冬は安心してすごせるな。地下室に持って行って、おけをしまっておくれ」 いわれた通りおかみさんは、おけをよいしょとかかえると、地下室に運び、しっかりとおおいをかけて、しまいこみました。「これで大丈夫だわ。これなら、ゴキブリにだってなめられない……」
いよいよ、さむい冬がやってきました。ある日、ご主人はおかみさんにいいました。「おい、地下室にしまっておいたバターを、少しばかり持っておいで。パンがおいしくたべられるぞ」 おかみさんは、すぐに地下室におりていきましたが、おけを片手にもどってきました。「あなた、バターはからっぽよ。どうしたのでしょう……」
でも、ほんとうの犯人は、おかみさんでした。初めてバターを地下室に運んだとき、くんくんバターのにおいをかぎました。出来たてのいいにおいに、おかみさんは、おおいを持ち上げると、指にバターをつけて味見をしたのです。「うわっ、おいしい!」 思わずさけんでしまいました。このおいしさが忘れられなくなったおかみさんは、毎日のように、そっと地下室へ下りて行っては、バターをなめていたのです。でも、おかみさんは、バターがへってしまうことも、おけがからっぽになったことも気にかけません。昨日あったことなど、すぐに忘れてしまう、便利な頭の持ち主だったからです。
「なにっ! おけがからっぽだと? いったい、なにがあったんだ」 ご主人の口はあんぐり、目はパチクリです。おかみさんは、どこかに、少しでもバターがないか、おけの中をのぞきこみましたが、まったくありません。ただ、おけのまわりにくっついていたバターが、ストーブのあたたかさに溶けだして、そのにおいにひかれて飛んできたハエが一ぴきいます。「あなた、よくこえた大きなハエがいるわ。両手をもんで謝ってるみたい。きっと、このハエが、バターをみんななめちゃたのよ」 「そいつが、どろぼうだ。逃がすな」
ご主人は、木づちを持ってくると、「にくいやつだ、めちゃめちゃにたたきつぶしてやる」 と、ハエの止まっているおけをドカーンと、ひとたたきしました。おけはこわれましたが、ハエはブーンと飛び立って、こんどはテーブルの上です。そこで、テーブルもドスーン! テーブルは傾き、ハエはブーンとお皿の上。そこでお皿をガシャーン。木づちは、机もイスも、壁かけも、みんなこわしてしまいます。くたびれた主人は、息をきらして、座りこんでしまいました。するとハエは、ご主人の鼻の上にとまりました。「おい、おまえチャンスだぞ、このわしの鼻の上のどろぼうを、たたきつぶすんだ」
おかみさんは、木づちをとると、いきなりご主人の鼻めがけて、ガーン! ハエはブーンと飛びさり、ご主人の鼻は……どうなったでしょう。
「1月10日にあった主なできごと」
1709年 徳川綱吉死去…江戸幕府の第5代将軍で、当初はすぐれた政治を行なったものの、悪名高い「生類憐みの令」をはじめたために「犬公方」といわれた徳川綱吉が亡くなりました。
1920年 国際連盟発足…第1次世界大戦の反省から、初の国際平和機構である「国際連盟」が発足し、日本を含む42か国が加盟しました。
1922年 大隈重信死去…明治時代に参議・外相・首相などを歴任した政治家であり、東京専門学校(のちの早稲田大学)を創設させた 大隈重信 が亡くなりました。