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おかしな取りかえっこ

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 62]

ある村にお人よしの、老人夫婦がありました。二人はとても仲がよく、これまでに、二人がけんかをしたことを見たことがないと評判でした。その夫婦は、牛を2頭飼っていましたが、あいにく牛に引かせる荷車を持っていません。町へ出かける用事があるときは、頭を下げて、となり近所に借りるほかありませんでした。それがあまり重なると、近所の人も、ことわるようになりました。

「おじいさん、こうなったら牛を売りましょうよ。あの2頭を売って、そのお金で荷車を買えばいいじゃありませんか」「おばあさんのいう通りだ」おじいさんはさっそく、2頭の牛を引いて町をめざしました。すると、とちゅうで、町へ荷車を売りに行くという若い男に出会いました。「もしもし、お若い方、あんたの荷車をわたしに売ってくれないかな」「ちゃんとお金を払ってくれるなら、いいですよ」「あいにく、お金の持ち合せがなくてね、どうだね、この2頭の牛と、その荷車と取りかえてくれないかな」「2頭の牛と荷車1台?」若い男は、びっくりして叫びました。2頭の牛の値打は、荷車10台分以上もあります。「いいですよ、おじいさん、喜んで取りかえましょう」「そうかい、それはありがとう」若い男は、おじいさんの気が変わらないうちにと、大急ぎで立ち去りました。

おじいさんは、これで町まで行かなくてすんだとうれしくなりましたが、車を引かせるかんじんの牛を手ばなしたことに気がつきました。「まあ、いいや、わしが引っぱって帰ろう」けれども、なにぶんにも年寄りですから、すぐに息切れがしてしまいます。木かげで休んでいると、ひとりの農夫がヤギを2頭引っぱってやってきました。おじいさんは、農夫に声をかけました。「どうでしょう、この荷車と、そのヤギ1頭ととりかえてくれませんかな」「おじいさん、からかっちゃいけません。その荷車があれば、ヤギなんかいくらでも買えるでしょ」「ごらんの通り、わたしは疲れてしまって、車を引く力がありません」「わかりました。2頭のうち、好きなほうを連れてってください」「ご親切に、ありがとう」

おじいさんがヤギを連れてしばらくいくと、むこうからきれいな布で作った袋を、たくさん腰にぶらさげた商人がやってきました。それを見たおじいさんは、その袋がほしくなってたまらなくなりました。「もしもし、このヤギと、その袋ひとつと、とりかえてくれませんか?」「この袋ひとつと、ヤギ1頭! いいですとも、さぁどうぞ」またまた、おじいさんは、うれしそうにお礼をいって、袋をひとつ受けとりました。

しばらくいくと、大きな川に出ました。おじいさんは、渡し船に乗りましたが、向こう岸につくと船頭によびとめられました。「おいおい、おじいさん、渡し賃を忘れては困るね」お金のないおじいさんは、「船頭さん、この袋を渡し賃の代わりにとっておくれ」「ほう、こんなきれいな袋をくれるんですかい」渡し賃はわずかでしたから、船頭は大喜びでした。こうして、2頭の牛を引いて家を出たおじいさんは、とうとう手ぶらになってしまいました。それでも、いっこうに平気な顔で、のんびり家路につきました。

またしばらくいくと、馬や牛を売り買いする商人(ばくろう)たちが、道端でたき火をしながら、おかゆをすすっています。それを見るとおじいさんは、急におなかがすいてきました。「みなさん、おいしそうなおかゆですね、私にも一杯ごちそうしてくれませんか?」「いったいあんたは、どこの人かね」ばくろうの頭(かしら)がたずねました。「あそこに見える村の者です。町へ牛を2頭売りにいった帰りでしてね」「おかしな話だな、2頭も牛を売れば、たんまりお金が入っただろう。そんな金持ちが、何でこじきみたいに、おかゆをねだるんだい?」おじいさんは、それまでのことをすっかり話しました。ばくろうの頭は、面白そうに聞いていましたが、そのうち、まじめな顔でこういいました。「おじいさん、そんなわけならおまえさん、家に帰らないほうがいい。おばあさんは必ず怒って、おまえさんを家から追い出すから」

「なぁに、だいじょうぶですよ。うちのばあさんは、一度だって、私に文句をいったことがありませんから」「そんな馬鹿なことがあるもんか。おまえさんは、牛を2頭引っぱって家を出たんだよ、それが手ぶらで帰るんだ。この世の中に、それを怒らないかみさんがいるもんか」「それが、いるんですよ」「よし、それほどいうなら、一つ賭けようじゃないか。もし、おばあさんがおまえさんに文句をいわなかったら、わしの牛を10頭やろう。文句をいったら、おまえさんは、一生わしの手下になるんだよ」

こうしてばくろうの頭は、おじいさんについて、おばあさんの待っている家にいき、戸口に立って中のようすをうかがいました。「ただいま、おばあさん、今帰ったよ」「おや、おじいさん、お帰りなさい。牛はうまく売れましたか」「ああ、大きな荷車と取りかえたよ」「それはよかった、それで荷車はどこに?」「荷車はヤギととりかえた」「それはよかった、ヤギはどこに?」「ヤギは、きれいな袋ととりかえた」「それはよかった、その袋はどこに?」「袋は渡し船の船頭さんにやってきた」「それはよかった。おじいさん、遠い道をよく無事で帰ってくれましたね、さぁ、夕ご飯にしましょう。牛がいなくなったおかげで、これからは荷車を借りずにすみますよ、うまくいきましたね、おじいさん」

ばくろうの頭は、「賭けはわしの負けだ、明日、牛を10頭とどけよう」と、信じられないという顔で立ち去っていきました。


「11月15日にあった主なできごと」

1630年 ケプラー誕生…惑星運動に関する3つの法則を発見し、近代天文学におおくの業績をのこしたドイツの天文学者ケプラーが生れました。

1835年 カーネギー誕生…鋼鉄で利益をあげた大実業家で、公共図書館や大学、カーネギーホールの建設など公益事業に力をそそいだ社会事業家カーネギーが生まれました。

1867年 坂本龍馬死去…薩長同盟を成立させ、徳川慶喜による大政奉還を実行させ、明治維新への道を切り拓いた土佐藩出身の志士・坂本龍馬が、33歳の誕生日に暗殺されました。

投稿日:2012年11月15日(木) 05:55

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)