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ん廻し

「おもしろ古典落語」の94回目は、『ん廻(まわ)し』というお笑いの一席をお楽しみください。

田楽(でんがく)という食べ物があります。豆腐にみそをぬって串にさし、こんがりと焼いたもので、みそおでんともいいます。「さぁ、こっちへ上がってくれ」「兄貴すんませんね、大勢でやって来まして」「いやいや、今晩の肴は田楽だけなんだ。この近所の豆腐屋が田楽屋をはじめてね、食べてみたらこれがうまい。『今晩は若い衆が集まるんで、じゃんじゃん持って来てくれ』っていってあるんだ。酒だけはたくさん用意したから…。

ただ、田楽ってのは『みそをつける』とかいって、あんまり験(げん)のいいもんじゃない。で、どうだい、ひとつ運がつくように『ん廻し』ってのをやってみよう」『ん』のつく言葉をひとついえば1本食える。「たとえば『れんこん』、これで『ん』が2つ、2本もらうよ」と兄貴がうまそうに食べるのを見て、これはおもしろそうだと、みんな大賛成。

「じゃ、おれは『にんじん、だいこん』3本もらうよ」「じゃ、おれは『たまねぎん』『かぼちゃん』『きゅうりん』で3本」「だめだめ、『ん』を勝手につけちゃいけねぇ」「野菜にこだわるからいけねぇんだ『てんてん天満の天神さん』6本もらうよ」「おもしろくなってきたな、もっと他にないか?」

「こいつはどうだ、『本山坊(ぼん)さん看板ガン』」「なんだそりゃ、どんな意味だ?」「本山の坊さんが、看板でガンと頭を打ったってことよ、7本もらうぜ」「おれは8本だ『金神(こんじん)肝心散乱乱心』」「どんな意味か説明しろ」「金神という神様は肝心なもの、それを散乱させて粗末にしたために、乱心したということだ」「ははぁ、うまいね、次は?」

「『産婦三人皆んな安産産婆さん安心』で9本だ」「だんだん手がこんできたな」「おれは芝居でいくよ。『千松死んだか千年万年、辛苦艱難(かんなん)先代御殿』と11本だ」「うまいね、歌舞伎狂言『先代萩』のせりふじゃねぇか、もうこれ以上はないかな」「よく聞いてくださいよ、『せんねんしんぜんえんのもんぜんのやくてん げんかんばんにんげんはんめんはんしん きんかんばんぎんかんばん きんかんばんこんぽんまんきんたん ぎんかんばんこんげんはんごんたん ひょうたんかんばんきゅうてん』だ。43本もらうぜ」「でたらめいうんじゃないよ」「でたらめなんかじゃないよ。京都の神泉苑の薬屋に、人間の体半分に断ち割った人形が、玄関番みたいに置いてある。そこに金看板と銀看板があって、金看板には『根本万金丹』銀の看板には『根元反魂丹』という薬の名、瓢箪型の看板もあって、それには『灸点くだします』と書いてある」「へぇー?」「もう一度いってやろうか、いいか『先年神泉苑の門前の薬店、玄関番人間半面半身、金看板銀看板、金看板根本万金丹、銀看板根元反魂丹、瓢箪看板灸点』と2回いったから、86本もらうよ」

「おいおい、みんな持っていきやがったな」「よーし、こんどはおれだ。そろばん置いて、しっかり数えてくれよ。まず『ジャンジャ〜ン』と2つだ。続いて『ジャンジャンジャ〜ン』と3つ」「いったいそいつは何だ」「消防の半鐘だ。火事がおきてるんだ。遠いところの半鐘が『ジャ〜ン、ジャ〜ン、ジャ〜ン、ジャ〜ン、ジャ〜ン、ジャ〜ン』、近い半鐘が『ジャン、ジャン、ジャン、ジャン、ジャン、ジャン』で12本、ちゃんとソロバンに入れてるか」「ちょっと、待ってくれ〜」「そこへ消防ポンプが、『ウ〜、ウ〜、ウ〜、ウ〜』鐘が『カン、カン、カン』『ウ〜ウ〜、カンカン、ジャンジャンジャンジャン、カンカン、ウ〜ウ〜、ウ〜ウ〜、カンカン、ジャンジャンジャンジャン、カンカン、ウ〜ウ〜……』」「いいかげんにしろ、おい、こいつには生の田楽を食わせてやれ」「どうしておれだけ生なんだ?」

「火事なんだろ、もうこれ以上焼かないほうがいい」


「11月16日にあった主なできごと」

1523年 インカ帝国皇帝捕えられる…15世紀から16世紀にかけてペルー南部に栄えたインカ帝国は、クスコを中心に石造建築や織物、金銀細工など優れた文明を築きましたが、この日スペインの ピサロ は、帝国のアタワルバ皇帝をだまして捕えました。翌年インカ帝国は滅亡、スペインは南アメリカ大陸のほとんどを長い年月支配することになりました。

1653年 玉川上水完成…江戸幕府は急増する江戸市民の水を補うために、治水技術にすぐれていると評判の玉川兄弟(庄右衛門、清右衛門)に建設を命じ、玉川上水を完成させました。

1946年 「現代かなづかい」と「当用漢字表」…内閣は、これまでの「歴史的かなづかい」を現代の発音に近い「現代かなづかい」とする方針を発表しました(1986年に改正)。また「当用漢字表」1850字を告示し、日常生活に使う漢字を定めました。「当用漢字」は、1981年に範囲をよりゆるやかにした「常用漢字」1945字に改められ、2010年に「改定常用漢字表」2136字を答申し、現在に至っています。

投稿日:2012年11月16日(金) 05:14

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)