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『大和古寺風物誌』 の亀井勝一郎

今日11月14日は、『日本人の精神史研究』『大和古寺風物誌』『愛の無常について』など、ぼう大な著作を残した評論家の亀井勝一郎(かめい かついちろう)が、1966年に亡くなった日です。

1907年、地元銀行の支配人の子として北海道函館に生まれた亀井勝一郎は、旧制函館中学から旧制山形高校(現・山形大学)に入り、ドイツ語でゲーテやハイネの文学作品に親しむいっぽう、共産主義思想に魅かれるようになりました。そして1926年、東京帝大美学科に入学すると、中野重治らと知り合って、共産青年同盟員として評論活動を開始しました。1928年、大学生活に意義をみいだせなくなって退学するとまもなく、治安維持法違反の疑いで投獄されてしまいました。

2年半の監獄生活を体験後に保釈されると、プロレタリア文学が芸術や自己の内心の声を軽んじていることに違和感をおぼえはじめました。1934年に最初の評論集『転形期の文学』、1937年に『人間教育』を刊行して、長い思索の末に転向に至る苦悩がうかがえます。やがて、日本の古典文化に関心が向くようになり、古代・中世の日本仏教との出会いによって開眼し、「文学界」同人となって宗教論、美術論、文学論などを連載しました。1943年に刊行した『大和古寺風物誌』は、今もなお、奈良の古寺を巡る人々のよきガイドブックとして定評があります。

太平洋戦争後も、日本的なものへの模索は続き、1959年から「文学界」に、ライフワークとして『日本人の精神史研究』の連載を開始しました。この作品は、1965年に菊池寛賞を受賞しましたが、翌年の死去により全6巻の予定が5巻目の半ばで未完となってしまいました。著作は多方面にわたり、ロングラセーとなっている『愛の無常について』などの人生論、『現代文学にあらわれた知識人の肖像』、『我が精神の遍歴』などたくさんの著作を残し、21巻もの「全集」に収められています。

なお、私もよく利用する吉祥寺北口にある「ハモニカ横丁」は、近くに住んでいた亀井勝一郎が、100店ほどの小さな店舗が立ち並ぶさまを、楽器のハーモニカの吹き口に例えて命名したそうです。


「11月14日にあった主なできごと」

1630年 貝原益軒誕生…独学で儒学、国文学、医学、博物学を学び、わが国はじめての博物誌 「大和本草」 などを著わした貝原益軒が生まれました。

1889年 ネルー誕生…イギリスの植民地だったインドを独立に導き、インド発展に全力を注いだネルーが生まれました。インドでは、ネルーの誕生を祝う日であるとともに「子どもの日」になっています。

1930年 浜口首相狙撃される…東京駅で狙撃されて重傷を負った浜口雄幸首相は、「男子の本懐」と語って話題になりました。軍部の反対を押しきって行った金輸出解禁などが右翼の反感を買ったのが原因でした。

投稿日:2012年11月14日(水) 05:40

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)