たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 52]
むかし、ある家の大きな蔵に、ねずみの夫婦が住んでいました。蔵にはいつも、お米や麦や豆がいっぱい入っていたので、ねずみの夫婦は、とてもお金持ちでした。でも、ねずみの夫婦には子どもがいませんでした。そこで毎晩神様にお願いしていると、ようやく、とても可愛い女の子をさずかりました。夫婦は大喜びです。女の子はずんずん大きくなって、びっくりするほどきれいになって、ねずみ国一の美人といわれるほどになりました。
こうなるとねずみの夫婦は、娘を世界で一番えらい人のお嫁さんにしたいと思いました。ふたりで考えた末、それは高い高い空の上から世界中をあかるく照しているお日さまだと確信して、お日さまのところへでかけていきました。「お日さま、お日さま、あなたはこの世で一番えらい方です。どうぞわたしたちの娘をお嫁めにもらって下さい」といいました。
するとお日さまは、「それはありがたいが、世の中にはわたしよりもっとえらいものがいる」「えっ、それはどなたですか」「それは雲だ。雲がいっぱい出てきたら、わたしはみんなを見ることができなくなるからね」
それを聞いた夫婦は、雲のところへ出かけました。「雲さん、雲さん、あなたはこの世でいちばんえらい方です。どうぞわたくしの娘をお嫁にもらって下さい」「それはありがたいが、世の中にはわたしよりもっとえらいものがいる。それは風さ。風に吹きとばされたら、わしらはどうしようもない」
そこで、ねずみの夫婦は風のところへ出かけました。「風さん、風さん、あなたはこの世でいちばんえらい方です。どうぞわたくしの娘をお嫁にもらって下さい」「それはありがたいが、世の中にはわたしよりもえらい者がいる。それは壁だ。壁のやつばかりは、わたしの力ではとても吹きとばせない」
そこで、ねずみの夫婦は壁のところへ出かけていきました。「壁さん、壁さん、あなたは世の中でいちばんえらいお方です。どうぞうちの娘をお嫁にもらって下さい」「それはありがたいが、世の中にはわたしよりもっとえらいものがいるよ」
ねずみの夫婦はびっくりしました。「まあ、お日さまよりも、雲さん、風さん、そして壁さんよりも強いお方というのはどなたでございますか」「それはだれでもない、そういうねずみさんじゃないか。わたしがいくらがんばっていても、ねずみさんはへいきでわたしの体を食い破って、穴をあけて通りぬけていくじゃないか。だからわたしは、どうしてもねずみさんにはかなわないよ」
(なるほどね、今まで気がつかなかったなぁ。わたしどもが世の中でいちばんえらいのだ) と、ねずみの夫婦はにこにこしながら、帰っていきました。そしてさっそく、お隣のちゅうすけを娘のお婿(むこ)さんにしました。
若い夫婦は仲よくくらして、両親をだいじにしました。そしてたくさん子どもを生んで、お蔵のねずみ一家はますます栄えたそうです。