「読み聞かせ」のすすめ 12
ある公立図書館司書のお話です。
その図書館では、週に2回、午後3時半から絵本の読み聞かせを行なっていますが、いつも10〜15人ほど集まる子どものなかで、一人の女の子が目をひくようになりました。千香ちゃんという5歳の子です。
読み聞かせが終わると、子どもたちは、すぐに立ち上がって散っていきます。ところが、千香ちゃんだけは立ちません。きまって、2、3分は、ぽつんとすわっています。そして、ときには、読み聞かせた司書のところへやってきて、「このおとこの子(絵本の主人公)は、ほんとうは、やさしいんだよね」「きつねが悪いんじゃなくて、人間が悪いんだよね」などと、つぶやきます。
ある日、千香ちゃんがお母さんといっしょにやってきました。そこで、千香ちゃんの読み聞かせの終了後のことを話してみました。すると、すっかり、なぞがとけました。家で母親が読み聞かせたあとは、「おもしろかったね」「かわいそうだったね」などと語りかけながら、静かな時間をすごすようにしているのだそうです。
そして、その母親はさいごに「その、4、5分がとっても大切なような気がします。一つのお話を通して、親と子の心がひとつに溶けあえたのですから、あんな気持ちになれるのは、本のほかにありません」と語ったそうです。