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心を溶けあわせた時間を楽しむ

「読み聞かせ」のすすめ 12

ある公立図書館司書のお話です。

その図書館では、週に2回、午後3時半から絵本の読み聞かせを行なっていますが、いつも10〜15人ほど集まる子どものなかで、一人の女の子が目をひくようになりました。千香ちゃんという5歳の子です。

読み聞かせが終わると、子どもたちは、すぐに立ち上がって散っていきます。ところが、千香ちゃんだけは立ちません。きまって、2、3分は、ぽつんとすわっています。そして、ときには、読み聞かせた司書のところへやってきて、「このおとこの子(絵本の主人公)は、ほんとうは、やさしいんだよね」「きつねが悪いんじゃなくて、人間が悪いんだよね」などと、つぶやきます。

ある日、千香ちゃんがお母さんといっしょにやってきました。そこで、千香ちゃんの読み聞かせの終了後のことを話してみました。すると、すっかり、なぞがとけました。家で母親が読み聞かせたあとは、「おもしろかったね」「かわいそうだったね」などと語りかけながら、静かな時間をすごすようにしているのだそうです。

そして、その母親はさいごに「その、4、5分がとっても大切なような気がします。一つのお話を通して、親と子の心がひとつに溶けあえたのですから、あんな気持ちになれるのは、本のほかにありません」と語ったそうです。

投稿日:2008年11月17日(月) 09:26

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)