たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 49]
ある国の王様が、「石をうち殺して、血を流させることができれば、この国第一の若者とする」 というおふれを出しました。国じゅうから若者がやってきましたが、だれもできませんでした。
ある村に、とても賢いと評判の羊飼いの娘がいました。娘はおふれの話を聞くと、若者の姿に変装して、王様に 「挑戦します」 と申し出たのです。このうわさは、たちまち国じゅうに伝わり、たくさんの人が、石をうち殺すのを見物しようと集まってきました。
娘は、小刀をぬくと王様に向かっていいました。「この石をうち殺し、血を流させようと思います。王様、それではどうぞ、石に生命を与えてください。その上で、私が石をうち殺せないようでしたら、私の首をはねてください」
王様は、この言葉にびっくりしていいました。「お前は、この国一番の知恵のある若者じゃ。これからは、貴族にとりたてることにしよう。なお、もしこれからわしの申すことをやってのけたら、家族同様に扱うことにするが、どうじゃ」 「どうぞ、おっしゃて下さい。ぜひ挑戦してみたいと思います」
「3日後に、もう一度わしのところへ来なさい。ただし、その時お前は、何かに乗ってこなくてはいけないし、乗ってきてはいけない。わしに贈り物を持ってこなくてはいけないが、持ってきてもいけない。もう一つ、わしは供を連れてお前を迎えに行くが、お前は迎えてもらわねばならぬが、迎えてもらってもいけない」 と、王様。
約束の3日後、娘は、農夫たちに捕ってきてもらった4ひきのウサギを1ぴきずつ袋に入れ、それぞれ農夫たちに渡して、「私がウサギを放してといったら、放してね」 といいました。それから、2羽のハトを持ち、ヤギの背中にまたがって、お城をめざしました。そして、使者を先にやって、自分が出発したことを王様に知らせておきました。
やがて娘は、王様がたくさんのお供を連れてやってくるのを見つけると、「ウサギを放して」 といいました。ウサギが飛び出したのを見ると、お供の人たちはウサギを追いかけました。娘はヤギの背中にまたがって、ときどき足を地面につけたり、足を高くあげたりしながら王様に近づきます。そして、王様の前まで来ると、2羽のハトを王様にさしだしました。王様が手にしようとした瞬間、ハトはパッと飛び立ってしまいました。
「王様、ご覧いただきました通り、みなさんは私を迎えてくださいましたし、迎えてくださいませんでした。私はヤギに乗ってまいりましたが、乗ってまいりませんでした。王様に贈り物を持ってまいりましたが、持ってまいりませんでした」
王様は、すっかり感心して 「約束通り、今日からお前を息子同様に扱う」 といいました。娘が王様に耳を近づけ 「私は男ではなく、娘です」 とささやくと、奥さんのいない王様は、娘を妻に迎えたいと思いました。
こうして、知恵のおかげで、羊飼いの娘は王妃になったのです。