たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 47]
昔むかし、ある暖かな春の日のことです。ひとりの商人(あきんど) が山里を歩いているうち、道にまよってしまいました。よわった商人は、家がないかとあちこち歩きまわるうち、森の中に入ってしまいました。そのうち、遠くにすばらしく立派なお屋敷が見えてきました。ひと休みさせてもらおうと、喜びいさんで屋敷に立ち寄りました。
するとそこに、とても美しい女の人が現われたのです。そして 「どうぞ、ゆっくりお休みください。このあたりは、訪れる人もなく、とてもさみしゅうございます。よろしかったら、泊まっていただいてもかまいません」 というではありませんか。商人は、根がなまけ者でしたので、言葉にあまえて、このお屋敷に居ついてしまいました。いつも、あたたかいごはんとみそ汁、おいしいおかずを出してもらえたからです。
そんなある日のこと、女の人がいいました。「私は、少しのあいだ、町へ用足しにでかけなくてはなりません。この屋敷には12の部屋がございます。どの部屋をのぞいてもかまいませんが、12番目の部屋だけは、のぞかないでください」。商人は、部屋を見るより、昼寝でもしているよとこたえました。
ところが、女の人が出て行ってしまうと、たいくつでしかたがありません。ちょっとだけ部屋を見てみようと、最初の部屋をのぞいてみました。そこには、門松が立っていて、お正月のしたくがしてありました。2番目の部屋をのぞくと、みごとな梅の木が花をさかせています。3番目の部屋は、桃の節句。4番目の部屋はお釈迦さまのおまつり。5番目の部屋は、端午の節句、6番目は虫送り。7番目はお盆のお供えものがいっぱい飾ってあります。商人はおもしろくなって、次々に部屋をのぞきまわりました。
こうして、12番目の部屋まできて、決して開けてはいけないといった女の人の言葉を思いだしました。でも、ちょっとだけならいいだろうと、戸を少し開けてみました。すると、そこには大きな鳥の巣があって、戸を開けたとたん、一羽のうぐいすが舞いたつと、どこかに消えてしまいました。
ふと気がつくと、お屋敷はあとかたもなく消えていて、商人は深い山の中にぽかんとたたずんでいました。