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うぐいすの里

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 47]

昔むかし、ある暖かな春の日のことです。ひとりの商人(あきんど) が山里を歩いているうち、道にまよってしまいました。よわった商人は、家がないかとあちこち歩きまわるうち、森の中に入ってしまいました。そのうち、遠くにすばらしく立派なお屋敷が見えてきました。ひと休みさせてもらおうと、喜びいさんで屋敷に立ち寄りました。

するとそこに、とても美しい女の人が現われたのです。そして 「どうぞ、ゆっくりお休みください。このあたりは、訪れる人もなく、とてもさみしゅうございます。よろしかったら、泊まっていただいてもかまいません」 というではありませんか。商人は、根がなまけ者でしたので、言葉にあまえて、このお屋敷に居ついてしまいました。いつも、あたたかいごはんとみそ汁、おいしいおかずを出してもらえたからです。

そんなある日のこと、女の人がいいました。「私は、少しのあいだ、町へ用足しにでかけなくてはなりません。この屋敷には12の部屋がございます。どの部屋をのぞいてもかまいませんが、12番目の部屋だけは、のぞかないでください」。商人は、部屋を見るより、昼寝でもしているよとこたえました。

ところが、女の人が出て行ってしまうと、たいくつでしかたがありません。ちょっとだけ部屋を見てみようと、最初の部屋をのぞいてみました。そこには、門松が立っていて、お正月のしたくがしてありました。2番目の部屋をのぞくと、みごとな梅の木が花をさかせています。3番目の部屋は、桃の節句。4番目の部屋はお釈迦さまのおまつり。5番目の部屋は、端午の節句、6番目は虫送り。7番目はお盆のお供えものがいっぱい飾ってあります。商人はおもしろくなって、次々に部屋をのぞきまわりました。

こうして、12番目の部屋まできて、決して開けてはいけないといった女の人の言葉を思いだしました。でも、ちょっとだけならいいだろうと、戸を少し開けてみました。すると、そこには大きな鳥の巣があって、戸を開けたとたん、一羽のうぐいすが舞いたつと、どこかに消えてしまいました。

ふと気がつくと、お屋敷はあとかたもなく消えていて、商人は深い山の中にぽかんとたたずんでいました。

投稿日:2008年07月10日(木) 09:08

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)