こうすれば子どもはしっかり育つ「良い子の育てかた」 83
あるスーパーの店長さんから聞いた話です。
その店に、4歳くらいの男の子の手をひいた、30歳くらいのお母さんがやってくるようになって、もう半年以上になる。子どもを連れてくる母親の半分以上は、子どもが品物にさわろうとすると 「さわってはいけません!」 としかるようにいう。どうかすると、子どもの手をピシャリとたたく。
ところが、このお母さんには、そんなことが一度もない。ある時、男の子が魚にふれようとしたら、お母さんは 「あら、お約束はどうなったのかしら?」 と、静かにいうだけ。スーパーにいって、してよいことと、してはいけないことが、ちゃんと約束してあるらしい。
リンゴなど数のものを買うときは、お母さんが 「さぁ、5つ、かごに入れるわよ、お願いね」 というと、男の子は、お母さんが一つずつかごに入れるたびに 「ひとーつ」 「ふたーつ」 と声を出して数をかぞえる。そして、男の子が 「いつーつ」 というと、「はい、ありがとう」 と、ちょこっと頭を下げる。
店の中が混んでいないときは、そのかごを、お母さんが片手に下げて、男の子にも手をそえさせる。そして時々 「○○ちゃんが持ってくれるから助かるわ」 などといって、子どもに笑顔をおくる。
こうして買物を終えてレジに出る。するとお母さんは男の子に、きまって 「どうも、ありがとう」 という。そして、袋をいっしょに下げるようにして、子どもの歩調にあわせて、ゆっくり帰っていく。スーパーヘ来るとき、お母さんの姿は、たいてい、まっ白い前かけをしたまま。
店長さんは、この母子のたちいふるまい、帰っていくうしろ姿がとてもさわやかで、ふたりの来店がいつも楽しみだというのです。このお母さんの心には、ガミガミいい聞かせる 「しつけ」 などみじんもなく、子どもへのあたたかい思いやりだけが、いつもいっぱいになっているのにちがいありません。