たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 41]
昔、イギリスのノーフォークという県のスオファムといういなか町に、貧しい行商人が住んでいました。愛犬を連れて、一日中荷物をかついで売り歩いても、その日の食べものにありつけるのがやっとというほどでした。
この男の人がある日、夢を見ました。絵でしか見たことのないロンドン橋があらわれ、「ここへ行けば良いことがあるぞ」という声が聞こえます。この夢が一晩だけでしたら、忘れてしまったことでしょう。でも、次の夜も、また次の夜もというように、毎晩続くのです。
(こりゃ、ためしに行ってみるか) という気になった男は、愛犬といっしょに長い長い道のりを何日も歩いて、やっとロンドンにたどりつきました。その頃、ロンドン橋の上にはきれいな店が立ちならび、川には大きな船が行きかっています。男の人は、生まれてはじめてみる都のようすに、うっとりしながら、橋の上をうろうろしていました。でも、夢に聞えてきた「良いこと」は、おこってくれません。
いつまでたっても何もおこらないので、男の人はあきらめて帰ろうとしたところ、橋の上で店を開いている一人の主人によびとめられました。「お前さん、何の用があって毎日毎日、橋の上を行ったり来たりしてるんだね」「いえ、ここへ来ると良いことがあるっていう夢をみたんですよ」。男が答えると、店の主人は、腹をかかえて笑いだしました。
「まったくあんたもいなか者だな。そんなばかげたことでロンドン橋へ来たっていうのかい。おれもちょくちょく夢を見るんだが、ゆうべ見た夢では、おれはスオファムといういなか町にいたのよ。貧しい行商人の家の裏庭にある樫の木の根元を掘ると、たいした宝物がでてくるというお告げがあったんだ。だがな、いくらなんでも、わざわざそんないなかへいくほど、わしゃ、ばかじゃないね」
これを聞くと、男はうれしくなって、家へとんで帰りました。すぐに家の裏庭の樫の木の根元を掘りおこしました。すると、店の主人のいったことは、うそではありませんでした。宝物がたくさん出てきたのです。
男はこうして大金持ちになりましたが、お金を大切にすることを忘れずに、町に教会を建てたということです。そして、町の人はこの男の死後、教会に男の像をこしらえました。今も、愛犬を連れて荷物をかついだ行商人の銅像が残っているそうですよ。