たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 39]
昔ある村に、おじいさんとおばあさんがいました。ひどい貧乏で、その日の暮らしがようやくできるほどでした。ある年、村に泥棒がやってきて、あっちの家でもこっちの家でも、お金や食べ物が盗まれました。
それを聞いたおじいさんが 「そいつは大変だ。泥棒に入られたらどうしよう」 というと、おばあさんは 「家には盗まれるようなものは、何にもないじゃないの」 といいました。「いーや、大釜がある。先祖さまが10人以上も使用人をやとってたころ、みんなの食べる飯を一度に炊いてたものだから、価値があるぞ」 「あんなもの、誰が持っていくものですか。でかいばかりで、何の役にもたちません」 「いーや、きっと盗んでいく。今夜から、かわり番に寝ずに見張ることにしよう」
おばあさんはしかたなく、おじいさんのいう通り、交代で大釜の見張り番をすることにしました。ところが3日たっても泥棒はやってきません。おばあさんは 「こんな貧乏な家に泥棒に入るようなまぬけはいません。私はもう見張り番はやめますよ。そんなに心配なら、お前さんが大釜の中に入って寝ればいい」。そいつは名案だと、おじいさんは、その晩から大釜の中へ入って寝ることにしました。大釜に入ってフタをすると、すぐに眠くなり、そのうちぐっすり眠りこんでしまいました。
真夜中のことです。泥棒たちがおじいさんの家にやってきました。「何てひどい家だ。ガラクタばかりで盗むものなんてありゃしない」 とブツクサいいます。でも、引き上げようとしたところ、土間のすみに大釜があるのに気がつきました。「しかたがない、この大釜でも持っていくとするか」 と、泥棒の親分の命令で、子分たちは大釜に縄をかけ、外へ運びだしました。
「それにしても重たい釜だな」 大釜をかついだ子分たちは、あっちによろよろこっちによろよろ、ようやく村はずれまで来て、下ろしました。大釜のフタをとったところ、おじいさんが死んだように眠っています。「やい、じじい、起きろ!」。ところが、前の日から寝ずの番をしていたせいで、おじいさんはいくらゆすられても目をさましません。腹をたてた泥棒たちは、おじいさんの頭を刀でそり上げ、悪態をついて、大釜をそこに置いたまま引き上げていきました。
つるつる頭になったおじいさんは、急に寒くなって目をさましました。すると、大釜のフタもなければ天井もなく、月がこうこうと輝いているではありませんか。おじいさんはもうビックリ。「ばぁさん、大変だぁ。泥棒に家を盗まれた!」