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老人を捨てる国

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 34]

ある国に、70歳になると、男も女も捨てるならわしがありました。70歳の老人を、家の人が国ざかいまで送り、そのまま引き返してくるのです。

さて、この国の大臣にも、70歳の母親がありました。大臣は母を捨てるなどしのびなく、ある決心をしました。家の召使いたちにも隠して、地下に隠れ部屋をこしらえて、よその人たちには、母を捨てたといいふらしたのです。

それから何年かしたある日、となりの国から大臣の国の王様へ2頭の馬が送られてきました。「この2頭の馬のうち、どちらが親でどちらが子か返事をもらいたい。できなければ、大軍をさしむけて滅ぼす」 とあります。王様に呼び出された大臣でしたが、もちろん答えられません。いったん家に帰り、よく考えてから返事をするとことわって、その場をのがれました。

大臣は母に聞いてみよう、と隠れ部屋をたずねました。すると 「そんなことは簡単なこと。2頭の間に草をおきなさい。すぐに食べるのが子馬で、残った草を食べるのが親馬」 と答えました。お城にもどった大臣は、さも自分が考えついたように王様に話し、王様は 「親馬」 「子馬」 と書いたふだをつけて、となりの国王あてに送り返しました。

ところがしばらくすると、1本の材木が送られてきました。先も元も同じ太さに削られた材木で、どちらが先でどちらが元かという問いです。どうみてもまったく同じです。また、大臣が呼ばれましたが、もちろんわかりません。よくよく考えてみますと急いで家に帰り、母親にわけを話しました。

「それはごく簡単なこと。水に浮かべて、沈んだ方が元です」。池にその材木を浮かべてみると、たしかに一方が少し沈みます。王様は沈んだほうを元と書きつけて、隣の国へとどけさせました。

もう2度といってくることがないだろうと安心していたところへ、今度は大きな象が1頭送られてきて、この象の重さをはかってよこせというのです。王様の顔面は蒼白になり、大臣を呼びました。こんな大きな象がはかれるような秤なんかありません。こんどこそ、もうだめだとあきらめながら、母親にわけを話しました。でも母親はすぐに、大臣に計り方を教えてあげました。

お城にもどった大臣は、王様にこういいました。 「良い考えが浮かびました。まず、象を船に乗せて、水に浮かべます。船が沈んだところに印をつけて、象を船からおろします。今度は石をひとつひとつ船に積みます。象が乗ったときにつけた印のところまで船が沈みましたら、石を船からおろして、おろした石の重さをはかって、目方を合計すれば象の重さになります」 「うーむ、さすがじゃ」 と王様。

さっそく王様は、大臣のいった通り象の重さを計り、となりの国王に返事をしました。隣の国王は、これは答えられまいと、戦争のしたくをはじめていましたが、今度もみごとに正解です。[こんな難問を解くことができるとは、かしこい人間が多い国だ。こんな国にせめいっては、どんな目にあうかわからない] と思ったのでしょう。仲良くしようという手紙が来ました。

この手紙を受け取った国王は、心から喜びました。「大臣、難問を解いてくれてありがとう。ところでこんな難しい問題を、どのように解いたのじゃ」 「申しわけございません。私には、70歳をこえた母がございます。この母を捨てることができずに、家の中に隠しておりました。この母がすべての答えを教えてくれたのです…」 と、声をつまらせました。

これを聞くと王様がいいました。「この国に、どんなわけがあって老人を捨てるならわしがあったのだろう。そうだ大臣、すぐにおふれを出しなさい。今日からこの国は老人を捨てる国から、老人を敬う国にするとな」

こうしてこの国に、悪いならわしがなくなり、平和な国になったということです。

投稿日:2008年02月19日(火) 09:34

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)