こうすれば子どもはしっかり育つ「良い子の育てかた」 71
作文教室の先生から伺った話です。
はじめて教室に来るようになった小学一年生の女の子が、わずか一時間のうちに5回も、「ありがとう」 をいいました。わからない字や文の続けかたを教えてやった時、「ありがとうございました」。横の同じ一年生の子に、机から落とした鉛筆を拾ってもらった時 「ありがとう」。学年が上の4年生の子が 「その字、ちょっと違うよ、ほら、こう書くんだよ」 と教えてくれた時 「ありがとうございました」。そして、一時間が終わって帰る時、「ありがとうございました」。──これが、まったく嫌味がないのです。
そこで、それから2、3回後の教室のとき、たまたま、その子と一緒に来られたお母さんに、たいへん感心したことを話しました。すると、そのお母さんから返ってきた言葉は次のようなことでした。
「私は、祖母から くありがとう> という言葉のすばらしさを教わり、家のなかで夫に対して、何かあれば自然に <ありがとう> というのが習慣になってしまいました。これを夫に強要した事は一度もありませんが、それでも、いつの間にか くありがとう> をよく口にするようになりました。そして、あの子が生まれ、2歳、3歳になった頃から、あの子がちょっとでも何かしてくれれば <ありがとう> と言っているうちに、あの子も、いつの間にやら <ありがとう> と言うようになりました。だだ、それだけのことです」
この話を聞いた後、思わず胸のうちで (ありがとうございました) と言ってしまったほどでした。話の最後に 「ありがとうってすばらしい言葉だと思います」 と言われた時の、このお母さんのお顔がほんとうにきれいでした。
こう語る、作文の先生の笑顔もまた印象的でした。