たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 33]
ある冬の夕方のこと。お寺の墓掘りの家では、おかみさんと大きな年とった黒ねこのトムが、だんろにあたりながら、墓掘りの帰りを待っていました。でも、なかなか帰ってきません。
やっと帰ってきた墓掘りは、家へとびこんでくるなり、「トミー・トルドルムって知ってるか?」といいました。おかみさんも、トムもびっくりして墓掘りをみつめました。
「あらっ、いったい何のこと?」 とおかみさん。「さっき、大変なことに出あったのよ。死んだじいさんの墓を掘ってて、ちょっと疲れたんでついウトウトしちゃったのさ。それから、ニャーオってねこがなくんで、目がさめた」 すると、「ニャーオ」 と、トムがなきました。「そう、トムみたいにな。お墓のむこうを見たら、9ひきの黒ねこがいるじゃないか。なんと、8ぴきが小さな棺おけをかついで、1ぴきの大きなヤツが、いばりくさって先頭に立ってくるんだ。ねこどもは、3歩歩いちゃ、ニャーオってなくんだ」 「ニャーオ」 トムがまたなきました。「うん、ちょうどそれとそっくりだ」 「いいの、年よりトムのことなんか」
「だんだんオレに近づいてきて、大きなヤツがじいさんの墓の前でとまった。おれはこっち、やつらはあっちで、ねこどもがオレのことをじっと見てるんだよ。おや、トムを見てみろ! ねこがしたみたいにオレを見てる!」 「いやだよ、トムなんかほっときな」
「どこまで話したっけかな? そう、一番でっかいヤツが、オレを見ながらいったんだ。間違いなくいった。キーキー声で、トミー・トルドルムに 『チム・トラドルムが死んだ』 と伝えてくれとな。それで、お前に聞いたわけよ、トミー・トルドルムって、誰か知ってるかって。トミー・トルドルムがわからなくちゃ、『チム・トラドルムが死んだ』 っておしえてやれないだろ」
「トムをごらんよ、トムを!」 と、おかみさんが金切り声をあげました。トムがみるみるふくれだして、しわがれ声をあげました。「何っ! チムが死んだ? それじゃ、オレがねこの王様だ」 そういうと、トムはだんろのけむり穴に飛び上がると、それっきりいなくなりました。