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寿限無 (じゅげむ)

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 32]

昔、あるところに男の子が生まれたばかりの夫婦がいました。何しろはじめての子なので、縁起のよい、長生きしそうな名前をつけようといろいろ考えましたが、これはという名が思いつきません。そこで、お寺の和尚さんに相談しようということになり、亭主がお寺に出向きました。

「和尚さん、男の子が生まれたんで、名前をつけてもらいたくて」 「なに? わしに名づけ親になってくれというのかい。どんな名前がよいのかな」 「とにかく、とびっきり長生きしそうなやつを、どーんとたのみます」

「昔から、鶴は千年というから、鶴太郎、鶴之助というのはどうかな」 「千年で死んじゃうんじゃ、もっと長いのはないですか」 「では、亀はどうじゃ、亀は万年といってツルの10倍も生きる。亀太郎、亀之助というのは……」 「冗談いっちゃいけねぇ、こないだ夜店で小さい亀を買ってきたら、よく日もう死んじまった。いつまでも生きられるっていうのはないですか」

「寿限無(じゅげむ)というのがある」 「じゅげむって、毛虫ですか」 「そうではない。寿(ことぶき)限り無しといって、死ぬときがないということだ」 「そりゃ、ありがてぇ。他には何かありませんか」

「そうだな、五劫(ごこう)のすりきれというのがある」 「何ですか、ゴボウのスリキレたのって」 「ゴボウではない五劫じゃ、3000年に一度天人が天からおりてきて、はごろもで下界の岩をこする。その岩がすりきれてなくなるのが一劫、それが五劫だから何千何億年、とても数えつくせない。限りないのと同じじゃよ」 「ふぅー、すごいもんですね」

「海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)というのはどうじゃ。海の砂利、水に住む魚というのは限りない。水行末(すいぎょうまつ)、雲来末、風来末というのもある」 「そいつは、胃ぐすりですか」 「そうではない、水のゆく末、雲のゆく末、風のゆく末というのは、はてしがないじゃろ」 「なーるほど、まだ他にありますか」

「食う寝るところに住むところ、どれが欠けても人間は生きていけない、だいじなものじゃな」 「ほかにもありますか」 「ヤブコウジのブラコウジ……というのもある」 「何です、それは」 「藪柑子(やぶこうじ)というなんともじょうぶな木があって、春は若葉、夏に花が咲き、秋に実を結び、冬は赤い色をそえて霜をしのぐというめでたい木じゃ」 「どんどん出てきますね。まだ他にもありますか」

「ついでだから話をするとな、むかし唐土(もろこし、今の中国)にパイポという国があって、そこの王様のシューリンガンと妃のグーリンダイに、ポンポコピーとポンポコナーというお姫様がいて、この二人がたいそう長生きだったそうじゃ」 「ポンポコピーとかポンポコナーって、おもしろそうですね」

「長く久しい命と書いて、長久命という名もいいな。もし、わしの孫につけるとしたら、長助、長く助かるというのだからすばらしいだろう。もうこれくらいでよかろう」 「ありがとうございます。でも、いろいろ出てきたんで、とても覚えられません。すみませんが、はじめからしまいまで、紙に書いてくれませんか。そん中から選びますんで」

帰り道、亭主は和尚さんの書いてくれた紙を見ながらぶつぶつひとり言をいっています。「まず、最初が寿限無(じゅげむ)てんだな、寿限無寿限無、五劫(ごこう)のすりきれときた。海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)に水行末、雲来末、風来末か。えーと、食う寝るところに住むところ、ヤブラコウジのブラコウジ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの、えーと長久命の長助……か、なーるほどね。このうちどれをつけても、もし具合が悪くなったとき、あっちにしておけばよかったなんて、グチがでるといけねーな。めんどくせー、この名前を全部つけちゃえ」 と、家へ帰っておかみさんに話して、この長い長い名前を、男の子につけました。

名前がこの子の性にあったのか、すくすく育ちまして、学校へ通うようになりますと、近所の友だちが朝、むかえにきます。「おーい、寿限無寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末、食う寝るところに住むところ、ヤブラコウジのブラコウジ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助ちゃーん、学校へ行こう」

「あーら、おはよう。よくさそっておくれだね。うちの寿限無寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末、食う寝るところに住むところ、ヤブラコウジのブラコウジ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助は、まだ寝ているの。いま起こしてくるから、ちょっと待っててね。これ、寿限無寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末……」

「おばさーん、学校に遅れるからぼく先に行くね」

投稿日:2008年02月05日(火) 09:23

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)