たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 31]
むかし、木賃宿をいとなむ欲の深い夫婦がいました。木賃宿というのは、料金の安い旅館とかホテルのことです。ある日、大きな風呂敷包みを背負って、両手に重そうな荷物をぶらさげた旅人がやってきました。
これを見たおかみさんは 「お前さん、あの客はどうもお金をたくさん持っていそうだよ。宿賃の1000円を2000円にしちゃまずいだろうから、なんとか荷物を置いていかせることはできないだろうかね」 といいました。
するとご主人は、いいことを思いついたと、ひざをたたきました。「まず、盗まれるといけないから荷物をあずかりましょうといって、こっちに渡してもらうんだ。それから、みょうがをたくさん食わせる。むかしから、みょうがを食べると物忘れがひどくなるというからな」。「そりゃいいね。ちょうど、みょうがの子が出る時期だから、うらの畑からみょうがをたくさん取ってこよう」 と、おかみさん。
こうして、晩飯にみょうがの料理をたくさん出して、客をもてなしました。みょうがの刺身、みょうがのテンプラ、みょうがのおつゆ、みょうがの煮付け、みょうがの漬物……と、みょうがづくしです。客は、おいしいおいしいと、大喜びで、たくさん食べました。
さて、翌朝のこと。客は 「ゆうべ預けた荷物をもらおう」 といって、荷物を全部返してもらうと、満足そうに出て行きました。おかみさんはがっかりして、主人に 「みょうがの効き目はなかったね。あてがはずれちゃた……」
「いやいや待てよ、効いた、効いたぞ。あの客、宿賃のことを忘れて、払わないで行っちまったぁ」