たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 30]
むかし、一人の旅人が森をとぼとぼと歩いていました。村になかなかたどりつかないので、今夜はどこですごそうかと心配になりだしました。すると、木の間に明かりが見え、一軒の小屋がみつかりました。小屋には暖炉の火が燃えています。旅人は、あの火にぬくもって少しでも食べ物にありつけたらと、小屋の戸をたたきました。「こんばんは。一晩泊めていただけないでしょうか」
おばあさんが出てきて 「ここは宿屋じゃないよ。家の者はいないし、よそをおさがし」 と、けんもほろろです。でも、旅人はそんなことで引き下がる人ではありませんでした。何度も何度もたのんで、とうとう 「床の上なら寝てもよい」 といわせました。そのうち旅人は、おばあさんが、少しケチのガミガミ屋なだけで、そんなにいじわるな人ではないことがわかってきました。そこで、何か食べさせてもらえないかとたのんでみました。
「とんでもない。あたしゃ、丸一日パンのひとかけらも食べていないんだよ」 「そりゃいけない。ごいっしょに、何かめしあがっていただきましょう」 「あんたは、何ももっていないようだけど……」 「なーに、私はあちこちわたり歩いているもんで、いろんなことを知ってます。おばあさん、そのナベをかしてくれませんか。小石スープをこしらえますよ」
おばあさんは、旅人が何をするんだろうと知りたくなって、ナベを貸しました。旅人はナベに水をいっぱい入れて火にかけました。そして、ポケットからきれいな小石をとりだすと、ナベの中に入れました。おばあさんは、目をまん丸くして、これは貧乏人には耳寄りの話だと思いました。
旅人はお湯をかきまわしながら 「こいつはちょっとうすいようだ。なにしろ、1か月もおなじ石を使ってるんでね。おばあさん、麦のひとすくいもあればおいしくなるんだけど……、いや、なければいいんですよ」 と旅人。おばあさんは、麦のクズがあったはずだと、麦の粉クズをたくさんもってきました。
旅人は、お湯に麦粉を入れ、かきまわしながら味見をしました。「おいしくなってきましたよ。これに、ジャガイモと塩漬け肉を入れると、格別おいしいスープになります……、いや、なければいいんですよ」。おばあさんは、ジャガイモと塩漬け肉があったことを思い出しました。
旅人は、スープにシャガイモと塩漬け肉を入れてかきまわしながら味見をします。「いやー、うまい。これは、王様の料理番にしこまれたスープ料理ですからね。これに、ミルクとコショウが少々あると、すばらしい王様スープになります……、いや、なければいいんですよ」。旅人は、有頂天になったおばあさんの持ってきたミルクとコショウをスープに入れ、小石を取り出していいました。
「さあ、できあがりました、特製の王様スープです。ただ、王様がこんなすてきなスープのあるときは、お妃さまとお酒を1〜2杯、ハムをはさんだサンドウィッチを一切れほど召し上がります。それから、テーブルに白い布をかけて……、いや、なければいいんですよ」
もう、おばあさんはすっかり豪勢な気分になっていました。大事にしまっておいたワインと、サンドウィッチばかりか、ソーセージやベーコンやら次々と出してくると、まるでお妃さまになった心地になって旅人と意気投合、おいしいおいしいディナーを楽しみました。
お腹のいっぱいになった旅人が、床で眠ろうとすると、おばあさんはいいました。「あなた様のようなえらい王様のお知り合いは、ベッドに寝なくちゃいけません」
いかがですか、小石スープの威力はすごいものだと思いませんか。