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きつねとじいさま

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 18]

むかし、頭がつんつるてんのじいさまがいました。ある秋の日のこと。すすきがいっぱいの野原を通りかかると、きつねが1ぴき、ススキのかげで遊んでいました。
「よーし、あのきつねをつかまえてやれ」
じいさまは、そっと、うしろにまわって きつねのしっぽを、ひょいとつかまえました。ところがしっぽは、ブルンと手のあいだからぬけてしまいました。じいさまは、また、ひょい。でも、やっぱりブルン。ひょい、ブルン。ひょいブルン。ひょいブルン……。
じいさまは、いつまでもしっぽを追いかけました。

ちょうどそこへ、となりのばあさまが通りかかりました。
ふとみると、じいさまが、ひょいひょいっと、何かに飛びつきながら、ススキのまわりをぐるぐるまわっています。
「じいさま、そーんなところで 何をしてなさる」 ばあさまが、たずねると、じいさまは言いました。
「しーっ、静かにしてくだされ、きつねのしっぽをつかまえるところじゃ。それっそれっ」
ぱあさまは、笑いだしてしまいました。じいさまが追いかけているのは、ススキの尾花だったのです。じいさまは、ばあさまに背中をどんとたたかれて、きつねにだまされていたのに、やっと気がつきました。
じいさまも、笑ってしまいました。でも、ちょっぴりくやしくてしかたがありません。そこで、少しこらしめてやろうと考えました。それから2、3日後、じいさまは袋につめた塩を持って、このまえと同じところへやってきました。そして、お酒によったふりをして草の上にねころんでいました。

やがて、きつねがあらわれました。このまえのきつねです。
じいさまがうす目をあけて見ていると、きつねは、じいさまの孫にぱけて 「じいさま、じいさま」 とよびながら、近よってきました。きつねは、ゆりおこすふりをして、じいさまのふところを、のぞきました。ふところが、大きくふくらんでいたのです。じいさまは、知らん顔していました。ほんとうは、おかしくて笑いだしてしまいそうでした。でも、いっしょうけんめいこらえて、しらんかおしていました。きつねはとうとう、ふところに頭をつっこみました。まごにぱけても、しっぽはでています。じいさまはそっと手をのばして、しっぽを力いっぱいつかみました。そして、あばれるのを おさえつけて、きつねの口にふところのふくろから取りだした塩を、ギューギューつめこんでやりました。きつねは、しょっぱくてたまりません。グエン、グエンなきながら、山へにげて行きました。

それから、いく日かしてじいさまが、そこを通りかかりました。すると、ススキのかげから きつねの声が聞こえてきました。
「しょっぺいの通る、しょっぺいの通る、はよ行け、はよ行け」

じいさまは、つんつるてんの頭を、ペタペタたきながら、クスクス笑って、家へかえって行きました。

投稿日:2007年10月16日(火) 09:06

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)