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ブタの望み

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 16]

ある時、1ぴきのブタがぶつぶつ、ぷーぷー、ぷーぷー、ぶつぶつ言いながら、役場へやってきました。
「何を、ぶつぶつ、言ってるんだい」 役場の人たちがたずねました。すると、ブタは、鼻を鳴らしながら言いました。
「おいらは、もう、がまんならずに、やってきました。ぷー。よーく考えてみてくだされ。ウマやウシは、おいしそうな麦をもらう。それに、かわいたわらをしいた小屋で気持よさそうに寝る。ぷー。ところが、おいらときたら、どうだ。ぷー。食わしてもらえるのは、人間が食べた残りものばかり。それに、寝るところは、いつもどろ水にぬれてぐしょぐしょ。ぷー。これじゃ、まったく不公平じゃありませんか、ねえ、そうでしょ、ぷー」

「おまえたちは、人間の食べ残しや、どろ水が好きじゃなかったのかい。いつも、うまそうに食べて、楽しそうにどろんこ遊びしてるじゃないか」
「とんでもない。ぷー。そりゃ考え違いですよ、ぷー」
「よし、わかった。そう、ぷーぷー鳴かないでくれ」

役場の人は、みんなで相談しました。そして、ブタに言いました。
「おまえの言うとおり、まったく不公平だ。これまでかわいそうだったかわりに、これからは小麦と豆をもらって、夜は絹のふとんに寝るがいい」
ブタは、鼻を鳴らしてよろこびました。そして、大きな声でひとりごとを言いながら帰って行きました。
「小麦と豆、それに絹ぷとんに寝るんだ! ぷー」 「小麦と豆、それに絹ぷとんに寝るんだ! ぶー」

ところがこれを、やぶの中で昼寝をしていたキツネが聞きつけました。
「ブタのやつめ、おかしなこと言ってるぞ。くずと残りもの食べて、どろんこの中に寝るくせに。よし、ほんとのことを言ってやれ」
キツネは、ブタにあわせて叫びました。
「くずと残りもの、それに、どろんこの中に寝るのさ!」
ブタは、キツネのいたずらに気がつきました。そして、大きな声で言いつづけました。
「小麦と豆、それに絹ぶとんに寝るんだ! ぷー」 「小麦と豆、それに絹ぷとんに寝るんだ! ぷーぷー」

キツネも負けずに叫びつづけました。「くずと残りもの、それに、どろんこの中に寝るのさ」「くずと残りもの、それに、どろんこの中に寝るのさ!」
「くずと残りもの、それにーー」 キツネのかん高い声は、とうとう、ブタにうつってしまいました。でも、ブタは、いつのまにか自分が 「くずと残りもの、それにーー」 と言っているのに気づきませんでした。

ブタが家へもどると、みんなが聞きました。
「ぶつぶつ、ぷーぶー言って家を出て行ったけど、役場の人に、望みをかなえてもらったかい?」
するとブタは 「ええ、もちろんですとも」 と言ってから、みんなに向かって叫びました。
「くずと残りもの、それに、泥んこの中に寝るのさ! ぷー」 「くずと残りもの、それに、泥んこの中に寝るのさ! ぷー」

向こうの草かげで、キツネが、腹をおさえて笑いころげて言いました。「かっこいいこといっても、本性は出るものだ」

投稿日:2007年10月02日(火) 09:08

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)