たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 20]
昔あるところに、ジャンというロバを飼っている男がいました。ある日のこと、ストーブに燃やす薪をとろうと、木に登りました。木の下ではロバがいました。そこへ、馬に乗った見知らぬ人が通りかかり、ジャンにこういいました。
「おーい、そこの人! 木を切ったことはないのかね?」
「何だと? おれがこれまで切った木を全部あわせりゃ、りっぱな森ができるくらいだ」 と、ジャンは叫びかえしました。
「おまえが切ろうとしてる枝を切ったら、地面におっこちるぞ!」
「何をほざく。お前こそ、木の切りかたについちゃ、何にもわかっちゃいないんだ」
それを聞くと、男はいってしまいました。ところが、まもなくミシミシッという音とともに、ジャンは枝もろとも、地面におっこちてしまいました。(おやおや? さっきのヤツはすごい男だ。言った通りになったんだからな。もしかしたら、あの人は予言者にちがいない。あとを追って、聞いてみることにしよう) ジャンは、ロバに乗って、あの男を追いかけました。すこしすると、さっきの男が、ゆっくり馬を走らせています。
「先ほどは失礼しました。あなたさまは、予言者ですね。すみませんが、ひとつだけお尋ねしたいことがあります。私は、いつ死ぬんでしょう」 「それは簡単なこと。あんたは、そのロバがくしゃみを3回したら死ぬよ」 というと、男は行ってしまいました。
(ハハァ、おれのロバはくしゃみなんて1度もしたことはない。ということは、おれは長生きできるってことだな) ジャンは、とても幸せな気分になって、家路につきました。ところがどうしたことでしょう。ロバがトコトコ歩きだしたとき、口を大きくあけると 「ハックショーン」 と、大きなくしゃみをしたのです。ジャンはびっくりぎょうてん。ロバからおりると、両方の手をロバに押し当てました。発作がおさまったようなので、また家へ帰ろうとしましたが、ロバに乗って行く気になれません。乗るかわりに、ロバがくしゃみをしそうになったらやめさせようと、ロバの脇を歩きました。
しばらくして、ジャンは耕したばかりの畑のそばを通りました。ジャンは立ちどまり、豊かな茶色い土を感心しながらながめ、来年にはどんなにかみごとな小麦がとれるだろうと、うっとりとしました。そのとき、「ハックショーン!」 ロバが2度目のくしゃみをしたのです。ジャンはかぶっていた帽子をぬぐと、ロバの鼻をしっかり押さえました。(ああ、あと1回くしゃみしたら、おれは死んじまう。あの男は悪魔だったんだ)
ジャンは、いいことを思いつきました。丸い小石をひろい、ビンの口にコルクの栓をするように、ロバの両方の鼻に小石でフタをしたのです。(そうーら、くしゃみが出きるものならしてみろ!) すると、「ハックショーン!」ロバの鼻から小石が鉄砲玉のように飛び出して、2つの小石がジャンの顔に命中したのです。「あっ!」 ジャンは叫びました。「おらは死んじまっただぁー! オジャンになったー!」 といったまま、道路に伸びてしまいました。