たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 13]
むかし、あるところに、意地の悪い大男がすんでいました。でも、その大男の家の庭には、春になると美しい花がいっぱいに咲きました。
あるときのこと、大男は遠くの町へでかけて、家をるすにしました。するとそのあいだに、おおぜいの子どもたちがやってきて、美しい庭で、楽しくあそびました。ところが、町からかえってきた大男は、これを見ると、たいへんおこりました。そして、子どもたちを庭から追いだすと、庭のまわりに、見上げるほど高いへいをつくりました。それだけではありません。へいの外に 「この中に入るな」 という、立てふだをたてました。
ところがつぎの年、寒い冬がすぎて、もうすっかり春になったというのに、大男の家の庭には、いつまでも冬がのこっています。花も咲きません。小鳥も飛んできません。あたたかい風もふいてきません。花も、小鳥も、風も 「この中に入るな」 と書いた立てふだを見て、にげだしてしまったのです。
「春のやつ、ここにだけ、どうしてやってこないのだ」 大男は、寒い庭に立って、ブルブルふるえながら、おこりました。でも、いく日かたって、高いへいを見あげたとき、ふと、立てふだのことに気がつきました。「そうか、そうだったのか」 大男は、立てふだを、ぬきとりました。そして、しめきっていた門も、いっぱいに開けました。
さて、つぎの日の朝。大男は、子どもたちの声で、目をさましました。庭をのぞくと、おおぜい子どもがやってきて、木のぼりをしてあそんでいます。でも、たったひとりだけ、木にのぼれなくて泣いている子がいます。大男は、庭へおりていきました。泣いている男の子を、木にのぼらせてやろうと思ったのです。
ところが、大男を見つけた子どもたちは、いっせいに、木からとびおりて、にげだしました。残っているのは、泣いていた男の子だけです。大男は、その男の子をそっとだきかかえて、木にのぼらせてやりました。そして、やさしい声でいいました。「これから、この庭はおまえたちのあそび場だよ」 すると、どうでしょう。木の枝にパッと花が咲いたではありませんか。庭にも美しい花が咲きました。小鳥のさえずりもきこえてきました。さっきにげた子どもたちも、みんな、もどってきました。
大男はこの日から、すっかりやさしい人間になりました。庭のまわりの高いへいも、すっかり、こわしてしまいました。大男の家の庭は、子どもたちの天国です。春だけではありません。あつい夏も、寒い冬も、やっぱり天国です。泣いていた子どもを木にのぼらせてやったときから、こんどは春が、庭から立ちさらなくなったのです。
それからのちの大男の家の庭は、1年じゅう、美しい花と、かわいい子どもたちの声と、大男の笑い声でいっぱいでした。