たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 11]
昔ある村に、2か月も3か月も雨の降らないことがありました。
そんなある晩のこと。ひとりの少女が木でできたひしゃくを持ち、水をさがし歩いていました。重い病気になったお母さんが「死ぬ前に、ひと口でもいいから水を飲ませてもらえないでしょうか」と、か細い声で神様へお願いしているのを聞いたからです。
どんなに水をさがしても、どこにも見つかりません。少女はつかれきって、道ばたにすわりこんでしまいました。空はよく晴れて、月は輝き、星もキラキラまばたいています。これでは、当分雨がふってくれそうにありません。少女はいつのまにか眠ってしまいました。目がさめたときには、月は真上にのぼっていました。あわてて、少女は立ち上がり、ひしゃくに手をのばすと、何ということでしょう。ひしゃくの中にきれいな水が入っているのです。
もう何日も水を飲んでいなかった少女は、思わず口元まで持っていきました。その時、お母さんのことを思い出しました。(お母さんが待っているんだわ。早く飲ませてあげなくては) と少女は思い直し、大切な水をこぼさないように気をつけながら、元気をだして家のほうへ歩いていきました。
ところがしばらくすると、少女は何かにつまずいてしまいました。そして、つまずいた拍子にひしゃくを落としてしまったのです。すぐに拾い上げてみると、不思議なことにひしゃくの水は一滴もこぼれていません。そして、やせこけた犬が、足もとでハァハァ、ぐったりしているのに気がつきました。少女がつまずいたのは、この犬だったのです。犬は、ほんの少しでもいいから水を飲ませてほしいといってるようでした。そこで、ひしゃくの水を手のひらにたらして、犬に飲ませてやりました。少女はまた歩きだしました。ふと気がつくと、ひしゃくが前より重くなっているのに気がつきました。いつのまにか、木のひしゃくが銀のひしゃくに変わっていたのです。
家にもどり、ひしゃくの水を見たとき、お母さんはどんなに喜んだことでしょう。「ありがとうよ、ありがとう」と、目を輝かせ、ベッドから起きあがって、ゴクリゴクリと水を飲みました。でも、お母さんは死にかかっている自分が飲むより、娘に飲ませてやるほうがいいと思いました。「お母さんはたっぷり飲んだから、あとはおまえが飲んでおくれ」と、ひしゃくを少女に渡しました。すると、ひしゃくは金のひしゃくに変わっていました。「わたしは飲まなくても平気よ、お母さんが飲んで、早く元気になってちょうだい」「いいえ、おまえが……」
二人がゆずりあっているところへ、やせた老人が入ってきました。「いま、水といってるようでしたが、もし水があるのでしたら、わたしに飲ませてくれませんか、もう死にそうなのです」
少女は、老人がかわいそうになりました。自分が飲みたいのを忘れて、「さあ、どうぞ」とひしゃくの水を老人にさしだしました。ところが老人は水を飲もうとせず、ひしゃくの中をのぞいています。何とひしゃくの水の中に7つのダイヤモンドが光っていたのです。老人はニコニコしながら、ひしゃくの水をおいしそうに飲みはじめました。ところが、いくら飲んでも水がなくなりません。そのうち、いつのまにか老人は消えて、水の中の7つのダイヤモンドがひしゃくの中を飛びだし、空高く飛んでいきました。少女が空を見上げると、北のほうの空に、これまで見たことのない7つの星が、ひしゃくの形をしてキラキラ光っていたのです。
お母さんと少女は、いくら水を飲んでも減らないひしゃくの水を飲んで、すっかり元気になりました。村の人たちも、このひしゃくの水をもらって元気になったということです。
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北の空を見ると、ひしゃくの形をした7つの星、北斗七星がみえます。これは「北斗七星」はどうして出来たのかというお話です。