たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 10]
昔あるところに、おじいさんの羊飼いが一人で住んでいました。
ところが、おじいさんの飼っている羊たちは、みんな気が強くて、おじいさんの言うことなどちっとも聞きません。夕方、羊たちを呼び集めようとしても、みんなしらん顔。だから、おじいさんは、いつもムチをふりまわしながら、かみなりのような声をだして、山をかけまわらなければなりませんでした。
ある朝のこと。おじいさんが、かまどで火をもやしていると、おじいさんを気の毒に思った妖精があらわれ、おじいさんに1本の棒をわたして言いました。
「かまどの火で、この棒の先をすこし燃やすと、青いけむりがでます。そのけむりで、のぞむものを書きなさい。それが、おじいさんにかわって、羊たちを呼び集めてくれます。そうすれば、おじいさんは、ムチをふりまわしたり、大声をだしたりしなくてもすむでしょう」
おじいさんは、妖精の言ったとおり、青いけむりで、若い羊かいのすがたをかきました。すると、ほんとうに、少年があらわれたではありませんか。少年は、つの笛とムチを持っています。おじいさんは、さっそく少年に、羊たちを集めてくるようにたのみました。
でも、夕方になると少年は、しょんぼりもどってきました。どんなにムチをふりまわしても、羊たちは、言うことをきかなかったのです。がっかりしたおじいさんは、棒の先でひとなでして少年を消すと、つぎの朝には、また青いけむりで、こんどは力の強そうな犬をかきました。ところが夕方になると、犬は、しょんぼりもどってきました。犬が追いかけると、羊たちは、かえって遠くへ逃げてしまったのです。
翌朝、おじいさんは、こんどこそと考えて、青いけむりでオオカミをかきました。目がぎらぎらと光り、歯が、大きなのこぎりのようにとがった、見るからにおそろしいオオカミです。でも、夕方になると、オオカミもしょんぼりもどってきました。大きなうなり声をあげて羊にかみつこうとすると、羊たちは、みんな、もっともっと遠くへ逃げてしまったのです。
「妖精がせっかく棒をくれたのに、どうして、うまくいかないのだろう」
おじいさんは、オオカミを消して考えました。そして、羊を集めるのに、痛いムチも、犬の力も、オオカミのおそろしさも役にたたなかったことに気がつくと、そのつぎの朝は、青いけむりで、目がしょぼしょぼの、としよりの羊をかきました。そして、やさしい声でいいました。「おじいさんの羊さん、わたしの羊たちを、みんな集めておくれ」
さあ、その日の夕方のことです。おじいさんが、いくら待っても、羊たちががもどってきません。おじいさんは心配になって、野原へ行ってみました。すると、どうでしょう。としよりの羊のまわりに、羊たちがみんな集まっているではありませんか。としよりの羊は、おじいさんに羊たちを集めてくるようにいわれても、もう足がよわっていて、とても遠くへは行けません。そこで、草の上にうずくまって、むかし、楽しかったことや、うれしかったことや、悲しかったことや、山の動物や花のことなどを話しはじめると、いつのまにか、羊たちがつぎからつぎに集まってきたのです。
それからのち、羊飼いのおじいさんは、夕方になると、空の美しい星を、のんびり眺めることができるようになりました。