こうすれば子どもはしっかり育つ「良い子の育てかた」 48
ある私鉄の始発電車に乗りこんだときのことです。
ホームに並んでいる人の列の中に母親と男の子がいました。電車のドアが開くと、その子どもが列を乱して前の方へ行き、横から割りこむようにして車内へとびこみ、席をとりました。そして、あとから乗りこんできた母親に 「お母さん、お母さん」 と呼びかけました。
お母さんのために席を確保してやったのです。母親がそばへくると 「はい、お母さんすわって」 といわんばかりに自分は立ちました。
ところが母親は、自分は腰かけないで、横に立っていた女の人に 「どうぞ、おかけになってください」 とすすめました。
そして、けげんな顔をしている子どもにはっきり言いました。
「あなたは、順番をみだして乗りこんで席をとったでしょ。してはいけないことをしたのよ。だから、お母さんは、そこにすわってはいけないの。わかるでしょ」 それは、けっして叱りつけるような荒い口調ではなく、ふつうに話しかけるような静かなものでした。男の子は小さな声で 「ハイ」 と、返事をすると、女の人がかけやすいように席の前をあけました。やがて、母親の 「さあ、どうぞ」 という声に女の人が腰かけて、電車は走りだしました。
母親は、自分のために席をとってくれた子どものやさしさは十分にわかっていたはずです。しかし、いけないことは、いけないこととして、きっぱり戒めました。しかも、まわりに人がいることもかまわずに、その場で。おそらく男の子は、もう二度とあのようなことはしないでしょう。しばらくしてその親子を見ると、母親の片手が男の子の肩に軽くのっていたのがとても印象的でした。
[夏季休暇のおしらせ] 8月13日より16日まで、夏季休暇のため、ブロクを休ませていただきます。