たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 9]
むかし、子どものいない王様とおきさきが3人の妖精を呼んで、むすこがほしいから、魔法の力をかしてくれるように頼みました。すると、願いがかなって、9か月ののちに、かわいい王子が生まれました。ところが、せっかく生まれたのに、悲しいことが起こってしまいました。3人の妖精が、王子へ魔法の贈りものをするためにやってきて、はじめの2人の妖精が 「世界一、かしこい王子になれ」 「世界一、美しい王子になれ」 と言いました。残った1人の妖精は、2人の妖精にすばらしい贈り物をされてしまったのに腹をたてて 「みんなにいばれないように、おまえの耳はロバの耳になれ」 と、叫んだのです。すると、王子の耳は、ほんとうに、ロバの耳になってしまいました。
王様とおきさきは、悲しみました。王子が大きくなるとともに、ロバの耳も、大きくなっていきます。そこで王様は 「王子がロバの耳だというのを隠さねばならない」 と考えて、王子の頭に、とくべつの帽子をかぶらせました。夜、1人でいるときも、寝るときも、ぬがせないのです。だから、王子の耳がロバの耳だということは、だれも気づきませんでした。でも、いつまでも髪を切らないわけにはいきません。王様は1人の床屋をよぶと 「おまえに、髪を切ってもらう。しかし、王子の耳のことを、だれにも話してはならぬ。もしも話したち、おまえの命はない」 と言って、王子の髪を切らせました。
ところが床屋は、あまりに大きな秘密を知ったものですから、だれかに話したくてしかたがありません。でも、話したら殺されます。そこで、教会へ行って、苦しいことを聞いてくれる神父に 「わたしは、大きな秘密を知っていますが、人にしゃべらないがまんをするのが苦しくてしかたがありません。どうしたらいいでしょう」 と相談しました。すると、神父は 「どこか遠い谷へ行って穴を掘り、その穴にむかってしゃべりたいだけしゃべって、気がすんだら、穴をうめてくるといい」 と教えてくれました。
でも、たいへんなことがおきてしまいました。床屋がしゃべってうめた穴の上にアシが生え、あるとき、そこを通りかかったヒツジ飼いが、そのアシで笛を作って吹くと 「王子様の耳はロバの耳」 と鳴ったのです。そして、そのうわさが広がって、王様の耳にも届きました。王様は、ヒツジ飼いを呼んで、その笛を吹かせました。自分でも吹いてみました。そうすると、まちがいなく 「王子様の耳はロバの耳」 と鳴るではありませんか。王様は怒りました。床屋をよびつけて裁判にかけ、死刑をいいわたしてしまおうと考えました。
ところが、王様が床屋を呼びつける命令をだそうとしたとき、王子が床屋の命を助けてほしいと願いでて、帽子をぬぎすてて言いました。 「わたしの耳がロバの耳だということは、隠すことはありません。ロバの耳をしていても、わたしは、りっぱな王になるつもりです」と。みんなは、いっせいに、王子の耳を見ました。でも、どうしたことでしょう。王子の耳は、もう、ロバの耳ではありません。だれよりも、りっぱな耳をしていました。王子の強い意志が、3番目の妖精の魔法を打ち破ったのです。
それからというもの、アシの笛も 「王子様の耳はロバの耳」 とは、鳴らなくなったということです。