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ネズミのすもう

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 7]

あるところに、まずしい、じいさまと、ばあさまがいました。
ある日、じいさまが、山へ柴かりに行くと、どこからともなく、ドスコイ ドスコイという声が、きこえてきました。
じいさまは、ふしぎに思って、声のするほうへ行ってみました。
すると、やせたネズミと、ふとったネズミが、けんめいにすもうをとっています。木のかげから、そっと見ると、ふとったほうは、長者どんのところのネズミ、やせたほうは、じいさまの家のネズミです。
じいさまの家のネズミは、ドスコイと立ちあがると、すぽーん、すぽーんと、投げとばされてしまいます。
これを見たじいさまは、自分の家のネズミがかわいそうでなりません。柴をかるのもわすれて、家へかえったじいさまは、ぱあさまに、山で見てきたことをすっかり話し、ふたりはかわいそうなネズミのために、もちをついてやりました。
その夜、ネズミは、戸だなに入れてあったもちを、腹いっぱい食べました。いままで食べたこともない、おいしいもちです。

さて、そのつぎの日、じいさまが山へ行くと、ドスコイ ドスコイ、ドスコイ ドスコイと、かけ声がきこえてきます。
木のかげからそっと見ると、長者どんのところのネズミも、じいさまの家のネズミも、しっぽをぴんと立てて、いっしょうけんめい。
きょうは、なんどやっても、勝負がつきません。やがて、ドスコイのかけ声がやむと、ネズミの話が、きこえてきました。
「おまえ、どうして急に力持ちになったんだい?」
「えへへ、きのう、家のじいさまとぱあさまに、もちを腹いっぱいごちそうになったのさ」
「なーるほど、そうだったのか。それにしても、うらやましい。どうだろう、今夜、おれも行くから、ごちそうしてくれないかなあ」
「おらの家のじいさまと、ばあさまは貧乏だから、おれがもちにありつけるなんて、めったにないんじゃが、おまえが、うんとお金をもってくるなら、ごちそうしてやってもいい」
「それは、ありがたい。こん夜は、もちにありつけるぞ」

きのうまで、すぼーん、すぽーんと負けていた、じいさまの家のネズミが、ひげをピクピク動かして、いばっているのがおかしくてしかたがありません。じいさまは、また、柴をかるのを忘れて家へかえると、ぱあさまに話しました。そして、きのうのよりもっと、おいしいもちをついて、2枚の、赤いかわいいふんどしといっしょに、戸だなに入れておいてやりました。
夜、 長者どんのネズミが、お金をうんとせおってやってくると、食べても、食べても、食べきれないほど、もちがあります。そのうえ、赤いふんどしまであります。長者どんのネズミは、ごきげんで帰っていきました。

さあ、つぎの日、じいさま山へ行くと、太った2ひきのネズミが、赤いふんどしをきりりとしめて、ドスコイドスコイ……。
どちらが、じいさまの家のネズミか、わかりません。
じいさまとばあさまは、ネズミからもらったお金で、しあわせにくらしましたとさ。

投稿日:2007年07月25日(水) 15:40

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)