たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 5]
あるところに、とても太った奥さんがいました。歩くのもやっとというほどなのに、なかなかやせません。そこである日、奥さんは、ヨタヨタ歩いて、医者をたずねました。
「先生、私はどんどん太るばかりでホントに困っています。やせ薬をもらえませんでしょうか」
奥さんは、いっしょうけんめい頼みました。でも、医者は診察もしなければ薬もくれません。
「きょうは、診察代だけ払って、お帰りなさい。あした、また来てください」といって、高いお金だけとって、奥さんを帰しました。
奥さんは翌日、いわれたとおり、また、医者のところへ来ました。
医者は、奥さんの頭のテッペンから、足の先までながめました。口の中をのぞき、手と足にちょっとだけさわりました。
それから、首をかしげ、ためいきをつきながら言いました。
「奥さん、きのう私は、2783冊の本を読み、197回も星占いをやってみました。その結果をお話します。びっくりしないで、聞いてください。あなたの命は、のこり1週間、7日のあいだしかありません。もうすぐに死ぬのですから、薬を飲んでもむだでしょう。お帰りになって、死ぬのをお待ちなさい」
太った奥さんは、ガタガタ震えだしました。帰るとちゅうも、帰ってからも、死ぬことばかり考えつづけました。
もう、何も食べる気もしないし、夜も眠れません。
奥さんは、日ごとに、いいえ1時間ごとにやせていきました。
こうして7日間がすぎました。奥さんは覚悟を決めて、静かに横になり、死ぬのを待ちました。
ところが、いっこうに死にません。8日、9日すぎてもまだ生きています。
10日目になりました。奥さんはとうとう、がまんができなくなって、医者のところへ飛んでいきました。
すっかりやせた奥さんは、走ることができたのです。
「あなたは、何というヤブ医者なんでしょう。あんなにたくさんお金をとっておきながら、よくも私をだましましたね。7日間しか生きられないとおっしゃいましたが、10日もたったのに、この通りピンピンしているじゃないですか」
奥さんは、ものすごい勢いで、医者に文句をいいました。でも医者は、落ち着いたものです。
「ちょっとうかがいますが、あなたは今、太っていますか、やせていますか」
「やせましたとも。死ぬのが恐ろしくて、食べものだって、のどを通りませんでしたからね」
「そうでしょう。その恐ろしいと思う気持ちが、やせ薬だったのですよ。それでも、あなたは私をヤブ医者だとおっしゃるのですか」
奥さんは、はっと気がついて、笑い出しました。こうしてふたりは、仲良く別れたのでした。