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「山梨県立美術館」 にあるミレーの代表作

大正時代に、武者小路実篤、志賀直哉、有島武郎ら白樺派の作家たちが積極的に紹介したことから、日本に広く知れわたったフランスの画家ミレー(1814-1875)。農民の絵を多く描いたこともあって、日本人の大好きな画家のひとりだといってよいでしょう。ミレーの代表作といえば「晩鐘」や「落穂ひろい」ですが、これらはフランス・パリの「オルセー美術館」にあります。そして、もう一つの代表作「種まく人」は、甲府市の山梨県立美術館にあります。1978年に美術館が開館した際、その目玉として2億円で購入され、当時は税金の無駄遣いと非難されましたが、今や別称「ミレー美術館」として、世界に知れわたっています。

20年以上も前、子どもたちが小学2、3年生だった頃、亡き妻と4人でここを訪れたことがありました。今でもはっきり記憶しているのは、この「種まく人」を鑑賞しようと出かけたところ、この名作のほかにも、たくさんのミレー作品が飾られていたことです。
その作品群の中でも、特に印象に残ったのは「夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い」でした。真っ赤な夕日を背に受けながら、長い杖を胸に数十頭もの羊を黙々と連れている羊飼いの孤独な、それでいて気高い姿に深く共鳴しました。そして、帰りに売店で、この絵のキャンバス型複製を買い求め、居間に長く飾っていたものでした。
美術館の庭にある岡本太郎の作品「樹人」をバックにした家族の記念写真とあわせ、なつかしく思い出します。

ミレーの「種まく人」は、岩波書店のシンボルマーク(1933年より使用)となっていることでも良く知られていますが、この作品とほとんど同じ構図の作品がボストン美術館にも存在します。そんなことから、両方の作品を並べて展示しようという催しが2002年の秋に、山梨県立美術館で開催されました。亡き妻と二人ででかけましたが、あまりの人の多さに息苦しいほどで、残念ながら鑑賞どころではありませんでした。

先週末、八ヶ岳の山麓にある当社の倉庫兼山荘へでかける途中、ミレーの作品が急に見たくなって久しぶりに立ち寄ってみました。土曜日の午後だというのに、広い展示室に数人ほどしかいません。一枚一枚じっくりとミレーの絵を鑑賞できました。
今回知ったことは、オルセーにある「落穂ひろい」を描く前に、ほぼ同じ構図で縦長にした作品や、エッチング作品を描いており、それが基になってあの代表作になったと推察できること、若くして病死したミレーの妻「ポリーヌの肖像」の憂いを含んだ表情の魅力、古代ギリシアの詩にヒントを得た作品「凍えたキューピット」は寒そうな子どもを老夫婦があたたかくむかえる、画家の優しさがあふれた作品、もちろん「夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い」との再会など、何ともぜいたくな時間を過ごさせてもらいました。やはり絵は、ゆっくり、じっくり味わいたいものだと思います。

山梨県立美術館の入場料は、ミレーなど常設展が大人500円、65歳以上は無料となっています。あと2か月で私も無料になりますので、これからはちょくちょく立ち寄ってみたいと思っています。広大な敷地内には、山梨県立文学館もあるので、次回はこちらものぞいてこよう。
ところで、私の前に美術館へ入ろうとした老夫婦がいました。「何か年齢を証明するものはありますか?」と窓口の人にいわれ、ないというと「生年月日を教えてくれますか」と聞き、すらすら生年月日を言うと「どうぞ」と、実にさわやかに無料の入場券を渡していました。役所と違って、その鷹揚さにも好感を持ちました。

なお、山梨県立美術館の収蔵作品の画像と解説につきましては、美術館のホームページ→「作品を探す」→「検索はこちら」→「ランダムに検索・文字一覧」からめざす作品をクリックすると、すべての作品を見ることができます。
投稿日:2007年07月13日(金) 09:00

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)