昨日のブログで、イタリア・フィレンツェの「ウフィツ美術館」にある、ボッティチェリの名画「プリマベーラ」(春)を紹介しましたが、この絵について調べているうちに、実に興味深いことが判りました。そのいくつかを記してみることにします。
(1) 「ウフィツ美術館」の名称の意味
この絵を所蔵している「ウフィツ美術館」という名称のことですが、このイタリア語の「ウフィツ」は、英語の「オフィス」(事務所)です。昔、司法・行政の執務室だったことからこの名前になったそうです。(おっと、これは以前ブログに書いたかな?)
(2) ボッティチェリは本名ではない
ボッティチェリの本名は、アレッサンドロ・ディ・マリアーノ・ディ・バンニ・フィリペーピ。あんまり長くて舌をかみそうですね。名前のアレッサンドロは省略されていつのまにかサンドロになったようです。それから、ボッティチェリというのは「小さい樽」の意で、ボッティチェリの兄さんが太っていたためにそのあだ名がつき、そのうち家族じゅうでボッティチェリを名乗りだしたということです。
(3) ボッティチェリはレオナルド・ダ・ビンチと同じ工房にいた
ボッティチェリは、「モナリザ」で有名なレオナルド・ダ・ビンチより8歳ほど年上です。二人が、フィレンツェの「ベロッキオ工房」にいたことは意外に知られていません。工房というのは、先生と弟子たちが一つ家に家族のように暮らし、ベロッキオ先生の請け負った仕事をみんなで協同して仕上げるところです。ボッティチェリはレオナルドの兄貴分として、おたがいの腕を競い合っていたと思われます。
(4) 「ビーナス」は男性器から生まれた
「プリマベーラ」と同じ展示室に、対になるように、ボッティチェリのもう1枚の名画「ビーナスの誕生」が飾られていて、こちらも「プリマベーラ」と人気を二分している見事な作品です。「ビーナスの誕生」のビーナスは、生まれたばかりの裸身で描かれています。ビーナスは、オリンポス12神の一人、美と愛の女神ですが、神話によりますと、ビーナス誕生までのいきさつは次の通りです。
カオス(混沌)から最初に生まれたのが大地の女神ガイアでした。ガイアは愛の神エロス、暗黒の神エレボス、天の神ウラノス、海の神ポントスなどを生みます。それからガイアはエロスの働きで、ウラノスと結婚して12人の子どもを生みます。ところが、ウラノスは子どもたちを可愛がりません。そこでガイアは「可愛い子どもたち、おまえたちの誰でもいいから、ひどいお父さんに罰を与えてちょうだい」と、のこぎりのような刃のついた鎌を手に言います。「私がやります」といったのは末弟のクロノスでした。そしてクロノスはガイアに言われた通り、ウラノスの性器を鎌で切り取ってしまいました。神は不死ですから、海に落ちたオチンチンは長い間地中海をただよい、キプロス島に漂着。肉塊から泡が湧いて出て、何とまばゆいばかりのビーナスの裸身があらわれました。このビーナスが誕生する瞬間を描いたのが、ボッティチェリの「ビーナスの誕生」なのです。
(5) 「春」に描かれている植物は500種以上
「プリマベーラ」(春)は1981年に1年間かけて修復されました。500年という途方もない時間の流れのなかで黒ずみ茶褐色に変色していた絵は、みちがえるほど美しくよみがえりました。人々が驚いたのは、絵の前面、美女たちの足もとに描かれた豊富な植物に満ちている野原だったそうです。これらの植物をこまかく調べた学者のグループがいて、およそ240種の花の咲いていない植物、190の花の咲いている植物、33種が想像上のもので見わけるのが難しく、19が判別不可能だったと報告書に記したそうです。そして、これらの植物の9割は、フィレンツェ周辺の野や林に自生しているということは、ボッティチェリの自然観察の鋭さを物語っているとともに、これらを調べ上げた研究者たちのこだわりにも感銘してしまいます。