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父と子のうんちの会話

こうすれば子どもはしっかり育つ「良い子の育てかた」 51
 
郊外へ向かう電車の中でのことです。座席に5歳くらいの男の子と、まだ若い父親、母親が腰かけていましたが、その男の子が、ふと 「う、う、う、うんち」 と言って、ふふふと笑いだしました。窓外に見えた 「うどん」 と書いた看板の 「う」 の字だけが読めて 「うんち」 となってしまったようです。

すると、母親が 「こんなところでうんちなどと言ってはだめ」 と、たしなめました。ところが、父親が平然と子どもに応じるように 「うんちか」 と言いだして、母親が 「あなた、そんな話やめてください」 と言うのもかまわず話はどんどん発展していきました。

「おまえ、毎日、うんち、ちゃんとでるか?」 「うん、でるよ」 「うんとでるか?」 「ちょびっとのときもあるけど、だいたい、うんとでるよ」 「そうか、それはいい」 「お父さんは?」 「うんとでるぞ」 「よかったね」 「うんちといえばなあ、アフリカでは動物のうんちをたくさん集めてきて、うんちの家をつくるところがあるんだぞ」 「ふーん、くさくないの?」 「少しくらいくさいかもしれないなあ。モンゴルというところでは、ひつじのうんちを燃やして、食べものを煮たり部屋をあったかくしたりするのだぞ」 「うんちでごはんたくの?」 「そうだよ」 「ごはん、くさくならない?」 「どうかなあ、少しくさくなるかもしれないなあ」……。

父親の話は、このあと、アフリカの人びとやモンゴルに生きる人びとの厳しい生活の話に移っていきました。父親は、子どもの 「うんち」 の一言を巧みにとらえて、子どもをしぜんに広い世界へみちびいていったのです。
最後には 「うんちの話なんか」 と言っていた母親も笑顔で聞き入っていた父と子の会話。この親子3人の心の通いあったあたたかい姿は全くすばらしいものでした。

「あんなに心の大きい父親をもってあの男の子は幸せだ」 と思ったのは、おそらく、まわりの乗客みんなだったに違いありません。

投稿日:2007年09月03日(月) 09:16

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)