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カメのピクニック

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 4]

あるところに、3びきのカメの親子がいました。父さんガメと、母さんガメと、むすこのカメです。
ある晴れた日、遠くにある森へ、ピクニックに出かけることにしました。父さんガメが持ったバスケットには、サンドイッチと、いろいろなかんづめがはいっています。それまで食べたこともないようなごちそうばかりです。3びきは、歩いて歩いて、3年もかかって、やっと森へつきました。そして、バスケットのなかのごちそうを取りだすと、父さんガメがいいました。
「さあ、食べよう。母さん、かんきりを出しておくれ」
母さんガメは、バスケットをのぞいて、かきまわして、その次には、さかさまにひっくりかえしました。ところが、かんきりが出てきません。母さんガメは、こまった顔をして、いいました。
「かんきり忘れてきてしまったわ。すまないけど、ぼうやとってきておくれ」
「えっ、あんな長い道を、ぼくがとりにいくの?」
むすこは、びっくりしました。しかし、父さんガメに 「かんきりがないと、ごちそうもたべられないじゃないか。おまえがもどってくるまでサンドイッチも食べないで待っているから、すまないが行ってきておくれ」 といわれると、しかたがありません。
「じゃあ、ぼくがもどってくるまで、ほんとうに何も食べないって約束する?」 「ええ、約束しますよ」 「約束するさ」

むすこのカメは、まもなく、のそのそ、やぶのなかへ入っていきました。
父さんガメと母さんガメは、じっと待ちました。1年すぎて、すっかりおなかがすいても、約束だから待ちました。それから、もう1年たちました。さらに1年すぎると、がまんできないほどおなかがすいてしまって、母さんガメがいいました。
「サンドイッチをひとつずつ食べません? あの子にはわかりっこありませんよ」
父さんガメは、ちょっと考えていましたが、首をふっていいました。
「いやいや、約束したんだから、待ってなくっちゃ」
父さんガメも母さんガメも、身動きひとつしないで待ちました。
そして、また1年が過ぎ、さらに、また1年が過ぎました。
もう、おなかがすいてすいて、がまんができません。母さんガメが
「あれから、もう5年ですよ。もどってくるなら、もどってこないとうそですよ。サンドイッチを、ひとつずつ食べましょうよ」 というと、父さんガメも、 「そうだなあ、ひとつずつ食べるか」 と、いって、サンドイッチを手にとりました。もうちょっとでサンドイッチを口にいれようとしたとき、やぶの下から、かすれた声が聞こえてきました。
「ああ、やっぱりぼくをだますんだな」 むすこのカメの声です。
「ぼく、かんきりをとりにいかなくて、ほんとによかったな」

投稿日:2007年07月03日(火) 10:23

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)