たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 3]
昔むかし、ある小さな村に、おばあさんが住んでいました。
おじいさんが死んでしまったので、ひとりっきりです。でもおじいさんが残してくれた財産がありましたから、仏壇に手をあわせ感謝しながら、しあわせに暮らしていました。
ある日の夕方のこと。ひとりのお坊さんが訪ねてきました。
「道に迷ってしまった旅の坊主です、今夜一晩泊めてもらえないでしょうか」
おばあさんは「それは、おこまりでしょう」といって、お坊さんを家に入れると、あたたかいごちそうを作って、もてなしました。そして、食事が終わると、こんどはおばあさんがお坊さんにお願いをしました。
「泊めてさしあげる代わりにお願いするようで申し訳けありませんが、仏壇のじいさまのために、お経をあげてもらえませんでしょうか」と、たのみました。
ところが、お坊さんはこまってしまいました。坊さんのかっこうはしていても、お経を知らなかったのです。でも、坊さんがお経を知らないとはいえません。仏壇の前に座り、手を合わせて考えこんでしまいました。
するとその時、障子のすきまからネズミが現われました。そこで、お坊さんは、お経のようなふしをつけて言いました。「おんきょろきょろ、おでましなさる」
その次に、ネズミがきょろきょろあたりをみまわしたので、やっぱりふしをつけて、言いました。「おんきょろきょろ、みまわりなさる」
やがてネズミはチュウチュウ鳴いて、障子のかげにかくれてしまうと、続けていいました。
「おんきょろきょろ、ささやきなさる」「おんきょろきょろ、おかえりなさる」
さあ、これを聞いたおばあさんは、何とありがたいお経だろうとすっかり信じて、それから毎晩仏壇に手をあわせては、「おんきょろきょろ〜」とやっていました。
しばらくたったある晩のことです。おばあさんがいつものようにお経をとなえはじめたところへ、どろぼうが入ってきました。ところが、どろぼうは、何もとらないうちに、びっくりしてしまいました。
そーっと忍びこんだのに「おんきょろきょろ、おでましなさる」。
驚いてあたりをみまわすと「おんきょろきょろ、みまわしなさる」
さては、見つかったかとつぶやくと「おんきょろきょろ、ささやきなさる」
恐ろしくなって、逃げだそうとすると「おんきょろきょろ、おかえりなさる」
どろぼうは、真っ青になって、一目散に外の暗闇へ飛び出していきました。
おばあさんは、おじいさんの残した財産をとられなかったのはもちろん、それからも「おんきょろきょろ〜」と唱えながら、幸せにくらしました。