● 外で働きながら、教室の先生の話をいっしょうけんめいに聞く
パタンパタン、パタンパタン。まいばん、佐吉がふとんに入っても、この音がきこえてきます。母親の、はたおりの音です。佐吉は、この音をきくと、いつも母親がかわいそうになりました。
大工の子として生まれた佐吉は、小学校を卒業すると、父の仕事を手伝うようになりました。ほんとうは、大工の仕事は好きではなかったのですが、父のいいつけですから、しかたがありませんでした。
あるとき、父が、ちかくの学校の校舎をなおす仕事をすることになり、佐吉は、しぶしぶついて行きました。ところが、まもなく、仕事に行くのが楽しみになりました。先生が、教室で子どもたちに読んできかせている世界の発明家の話を、教室の外で、そっときくことができたからです。
なかでも、自分と同じ大工で、苦労をして糸をつむぐ機械を発明したハーグリーブズの話に、すっかり心をうたれました。
佐吉は、その発明家の本を、どうしても自分で読んでみたくなって、先生に 「本をかしてください」 と、たのみました。すると、先生は 「教室の外で、いっしょうけんめいに話をきいていた君に感心していたのだよ」 といって、よろこんでかしてくれました。「西国立志篇」 という本です。
佐吉は、発明家たちの話にむちゅうになりました。そして、やがて、 はたおり機の研究にとりくむようになりました。「学問はなくても、努力さえすれば、自分だって、きっとできる。あたらしいはたおり機を作って、お母さんの、はたおりの仕事を楽にしてやろう」 と決心したのです。
豊田佐吉(1867〜1930)──はたおり機の研究と改良に生涯をささげて、日本の紡績産業の発展に力をつくした人。
詳しくは、いずみ書房のホームページにあるオンラインブック「せかい伝記図書館」をご覧ください。近日中にアップする予定ですので、ご期待ください。