● 両親、兄弟、祖父母を失い、深い孤独感にさいなまれる
医師の家に生まれた康成は、2歳のときに父を亡くしたうえ翌年には母をも失い、両親の顔も愛情もほとんど知らないまま、母の実家の祖父母のもとへあずけられました。このとき、よその村のおばの家へあずけられたたった1人の姉も、それから1度会ったきり、まもなく死んでしまいました。
7歳になったときに、こんどは、かわいがってくれた祖母が亡くなり、それから8年後の15歳のときには祖父をも失って、こんどはおじのもとへあずけられました。
こうして幼・少年時代に、父、母、姉、祖母、祖父をつぎつぎに失ったことが、康成の心に影響を与えなかったはずはありません。少年時代の康成は、からだが弱く、いつも孤独で、小学校へあがっても学校へ行くのをいやがり、1年生のときには69日も欠席したほどでした。祖父母にひっそりと育てられた康成は、たくさんの子どもたちの中に入るのが、こわかったようです。
小学1、2年生のころは、画家になることを考えました。ところがしだいに作文がとくいになり、5、6年のころから本を手あたりしだい読みはじめると、もうはっきりと、小説家を考えるようになっていました。小さいころからの孤独が、ものを深く見つめる心を育てていたのでしょう。
中学に入ると、授業中は教科書を立ててそのかげで読むほど、小説を読みつづけました。そして、15歳をすぎるたころから小説を書きはじめ、自分の夢をひとすじに追いつづけました。
川端康成(1899〜1972)──日本人の心をみつめつづけて、日本で最初のノーベル文学賞を受賞した作家。
詳しくは、いずみ書房のホームページにあるオンラインブック「せかい伝記図書館」をご覧ください。なお、「せかい伝記図書館」では、世界と日本の歴史に名を残した最重要人物100名の「伝記」、重要人物300名の「小伝」をすべて公開する計画です。「伝記」終了後、ひきつづき川端康成を含む「小伝」に移りますので、ご期待ください。