● 父の営む本屋の書棚の前にすわりこんで読書
『トロイメライ』という名曲があります。ピアノ曲集『子どもの情景』の中の7番目の曲です。バイオリンやチェロで演奏されるこの曲は、花園の夢にでもつつまれて安らかに眠っている子どもの姿を、まるで絵のように思いおこさせます。
数多くのピアノ曲や歌曲を残したシューマンは、7、8歳のころから、本に夢中になりました。父が本屋を営んでいたからでもありましたが、とにかく、店の書棚の前にすわりこむようにして、本を読みました。とくに夢中になったのは、夢と空想をえがいた詩や小説でした。
同じ7歳のころからすでに作曲も始めましたが、初めのうちは多くが即興でした。シューマンは、生れつき感受性の鋭い子どもでしたが、その鋭い感受性を、やはり、文学を愛する心が刺激して、ひとりでに曲がほとばしりでたのでしょう。少年時代から、文学をとおして繊細な心を育て、18歳の年に、シューベルトの死を知ったときには、ひと晩じゅう泣き明かしたということです。
16歳で父を亡くし、18歳のときに、母のすすめにしたがって、大学で法律を学ぶことになります。しかし、音楽への夢がすてられず、20歳の年に音楽家としての道をすすむことを母からゆるされました。
シューマンは、その後も、文学や哲学を愛する心を忘れず、作曲のかたわら評論家としても活躍する音楽家へと成長していきました。
シューマン(1810〜1856)──ドイツ・ロマン派の代表的な作曲家。
詳しくは、いずみ書房のホームページにあるオンラインブック「せかい伝記図書館」をご覧ください。なお、「せかい伝記図書館」では、世界と日本の歴史に名を残した最重要人物100名の「伝記」、重要人物300名の「小伝」をすべて公開する計画です。「伝記」終了後、ひきつづきシューマンを含む「小伝」に移りますので、ご期待ください。