● おとなが読む文学書をかたっぱしから読み続ける
龍之介が小学校3年生のときのことです。このとき、中国大陸で北清事変が起こっていましたが、龍之介はときどき、両国広小路の絵草子屋へ戦争の絵を買いに行きました。ところが、その戦争の絵の中で死んでいるのが中国人 (義和団) ばかりだということに気づいた龍之介は、こんなはずはない、日本兵も1人くらいは死んでいるはずだ、と思いました。真実を見きわめようとする力が、もう、そなわっていたのです。
同じころ、学校で先生に 「かわいいと思うもの、美しいと思うもの」 を書けと言われました。すると龍之介は、かわいいと思うものには象を、美しいと思うものには雲をあげました。ところが、先生に 「雲などどこが美しい、象もただ大きいばかりじゃないか」 とたしなめられ、答案には×がつけられてしまいました。しかし、このときの龍之介には、雲と象が真実だったのです。
龍之介は小学校に入ったときからたくさんの本を読み、10歳をすぎると、家にあった 「西遊記」 や 「水滸伝」 を愛読、さらに、町の図書館や古本屋へも通って、おとなが読む文学書を、かたっぱしから読みつづけました。そして、11歳のときには、友だちと『日の出界』という回覧雑誌をだして、いろいろな小説を発表しました。本を多く読むうちに、読むだけではものたりなくなり、自分で小説を書くようになっていったのです。
芥川龍之介(1892〜1927)──「くもの糸」「杜子春」「鼻」などの名作を残し35歳で自殺した作家。
詳しくは、いずみ書房のホームページにあるオンラインブック「せかい伝記図書館」をご覧ください。なお、「せかい伝記図書館」では、世界と日本の歴史に名を残した最重要人物100名の「伝記」、重要人物300名の「小伝」をすべて公開する計画です。「伝記」終了後、ひきつづき芥川龍之介を含む「小伝」に移りますので、ご期待ください。