● 父の言いつけをこばめば、いつもムチで打たれた
4大戯曲 「かもめ」 「ワーニャ伯父さん」 「三人姉妹」 「桜の園」 を書いたチェーホフは、ほんとうは生まれつき明るい性格でした。
ところが、少年時代、その明るい性格を、いつも押し殺していなければなりませんでした。食料雑貨店を営んでいた父は、父親としての権力ばかりふりまわし、6人の子どもたちに、ようしゃなく、むちをくらわせたからです。
少しでもいたずらすれば、むち。店の番をいやがれば、むち。教会の聖歌隊で歌うことを言いつけられ、これを拒むとまたむち。とにかく、父の言いつけにそむけば、たちまち、むちで打たれたのです。
小学校へあがった時、仲よしになった友だちに1番に聞いたのは 「家でよくぶたれる?」 ということでした。そして 「ぶたれないよ」 という返事が返ってくると、どうしても信じられませんでした。
のちに 「私の少年時代に、少年時代はなかった」 と語っています。のびのびした少年時代など、一つもなかったのでしょう。
しかし、チェーホフは、母や妹たちのことを思って、じっと耐え続けました。そして、やがて中学に入った時に父が破産すると、1人で自活しながら家庭教師などで稼ぎ、それを母と妹のもとへ送りました。父にむち打たれたことで、かえって、人のことを思いやるやさしい心と強く生きる心を、自分で育てたのです。
作家になってからは小説や戯曲を書くだけでなく、罪人や病気に苦しむ人びとのために働くなどして、社会のために尽くしました。
チェーホフ(1860〜1904)──父親のムチに耐えて心やさしく生きたロシアの作家。
詳しくは、いずみ書房のホームページにあるオンラインブック「せかい伝記図書館」をご覧ください。なお、「せかい伝記図書館」では、世界と日本の歴史に名を残した最重要人物100名の「伝記」、重要人物300名の「小伝」をすべて公開する計画です。「伝記」終了後、ひきつづきチェーホフを含む「小伝」に移りますので、ご期待ください。