「おもしろ古典落語」の22回目は、『あたま山』 というばかばかしいお笑いの一席をお楽しみください。
しみったれのけちべえさん。サクランボを食べていて、種をすてるのがもったいないので、いっしょに飲みこみました。この種が腹の中の暖かみで芽を出し、これがだんだん育っていきました。そして、ついに頭を突き抜けて、りっぱな木の幹になって枝を広げ、春になると、みごとな桜の花が咲きはじめました。
「どうだい、あたま山へ花見に行かないか」「あたま山?」「ほら、けちべえさんの頭よ。花が見ごろだってよ」てなことで、大勢の人が、あたま山をめざして集まってきます。茶店も出て、飲めや歌えのドンチャンさわぎ。踊りはおどる、けんかははじまるで、けちべえさんはすっかりまいってしまいました。「桜の花なんか頭の上で咲いてるからいけないんだ、いっそのこと、散らしちまえ」と頭をひとふりしたからたまりません。「うわーっ! 地震だ」と、ゴロゴロゴロゴロ、あたま山からころがり落ちます。
「ああ、これで頭がさっぱりした。…しかし何だな、桜は来年も咲くよ。花が咲くたんびに、こんな目にあうんじゃかなわない。そうだ、いっそのこと、桜の木を抜いてしまおう」ってんで、大勢の人に頼みまして、エンヤコラ、エンヤコラかけ声をかけて引っこ抜いてしまいました。ところが、桜の木があんまり根を張っていたので、引っこ抜いたあとに、大きな穴があきました。
ほうっておいたところ、夕立にあって、これにすっかり水がたまりました。ところが、ケチのけちべえさんですから、水を捨てたくありません。そのままにしておいたら、やがて魚がすみつき、フナだのコイだのダボハゼだのドジョウだのエビだの、いろんなのが泳いで、朝から晩まで、子どもが釣りにきて、わめいたり喜んだり泣いたり、もう、うるさいったらありません。暗くなって、子どもが帰ってやれやれと思ったら、夜になって舟をこいでくるのがあります。「兄ぃ、どうだい、ここらでひとつ、入れてみねぇか」「そうだな、やるとするか」と投網を打ちました。「あっ、痛てぇ! だれだ、おれの鼻の穴へ針をひっかけやがったのは…」 一難去ったらまた一難です。
夏ともなれば、この「あたま池」に夕涼みの舟が出ます。芸者を連れて飲めや歌えの大騒ぎ。威勢よく花火まであがって、ヒューっ、ドドーン、バババン・バーン……。いゃー、もう気が狂いそうになったけちべえさん、こんな苦しみをするくらいなら、いっそのこと死んでしまおうと「なむあみだぶつ」エィーっと…、
自分の「あたま池」に、ドボーンと身を投げました。
「5月20日にあった主なできごと」
1498年 バスコ・ダ・ガマ新航路発見…ポルトガル国王にインド航路を開拓するよう求められていたバスコ・ダ・ガマは、アフリカ南端の喜望峰を経て、この日インドのカリカットに到達しました。リスボンを出発からおよそ10か月でした。この航路発見により、ヨーロッパとアジアは船で行き来できるようになり、ポルトガルはアジアへ植民地を広げていきました。
1506年 コロンブス死去…スペインのイザベラ女王の援助を得て、ヨーロッパ人として最初にアメリカ海域へ到達したイタリア出身の探検家・航海者のコロンブスが亡くなりました。
1799年 バルザック誕生…『ゴリオ爺さん』『谷間の百合』『従妹ベット』など、90数編に及ぶぼう大な小説を書き上げ、その小説群を「人間喜劇」と総称したフランスの文豪バルザックが生まれました。