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飴をください

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 57]

今日も、ちょっと怖いお話ですよ。

むかし、ある村に一軒の飴(あめ)屋がありました。ある日の夜中のこと、戸をたたく音がします。飴屋のおばさんは、こんな時間に誰がきたのだろうと、戸を開けると、青白い顔をした女の人が立っていました。

「何のご用ですか?」「あのう、飴をひとつください」

おばさんが飴を包んで渡すと、女の人はお金を払って帰っていきました。はじめてあった人なので、不思議に思っていると、次の日の晩も女の人は飴を買いに来ました。それから、次の日も、また次の日も、夜になるとやってくるのです。

おばさんは、すっかり怖くなって、「私はもういやだよ、こんどはお前さんが出ておくれ」と、ご主人にたのみました。「よし、今度きたら後を追ってみよう」と、おじさんはいいました。

次の日の夜、おじさんは、飴を買いに来た女の人の後を、そっと追っていきました。女の人は、後ろを振り向くこともなく、飛ぶように歩いていきます。おじさんは女の人を見失わないよう必死になって追いかけました。すると女の人は、村はずれのお寺の前に立ちどまったかと思うと、ばっと姿を消しました。「やや、どこに消えた?」おじさんは、びっくりしてあたりを見回しました。そこは、大きな木に囲まれた墓地の中でした。でも、女の人の姿は見当たりません。

その時です。「ほぎゃぁ、ほぎゃぁ」という赤ん坊のか細い泣き声が聞えました。どうやら、お墓の方から聞えてくるようです。びっくりしたおじさんは、お寺に駆けこみました。「和尚さん、和尚さ〜ん!」。わけをきいた和尚さんとおじさんは、いっしょにお墓へいってみました。「これは、ついこのあいだ亡くなった、松吉という男のおかみさんの墓だ」「とにかく、掘ってみましょう」 二人は鍬をもってきて、墓を掘りました。中から、まだ木はだの新しいお棺が出てきました。そのお棺を開けてみると……

「あっ!」二人は同時に声を上げました。死んだ女の人のそばに、まるまると太った赤ちゃんが眠っているのです。「あめを買いに来たのはこの人です」「そうか。このおかみさんは、赤ん坊をお腹に入れたまま死んでしまったのじゃ。きっと、この墓の中で子どもを生んで、飴を食わせて育てていたのじゃろう」。

赤ん坊のくちびるには、飴をなめたあとが、うっすらとついていました。

投稿日:2009年08月05日(水) 09:07

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)