こうすれば子どもはしっかり育つ「良い子の育てかた」 87
日本で「教育」というと、教室で黒板を前にした先生が、一段高い教壇に立ってさまざまなことがらを生徒に教え、生徒は先生から教わるという上下関係にあるようです。幼児への家庭教育も同じで、多くの母親は、先生役になって子どもにしつけをする──教える母親、教わる子どもという上下関係にあると思っています。そのためか、知らず知らずのうちに独善的になり、子どもに対して圧制者のようになってしまっている母親をよくみかけます。
いっぽう、イギリスなどヨーロッパの人たちは「教育」のことを、子どもの本来持っている能力を「引き出す」ことだと考えています。英語の「教育」education の語源が、ラテン語の educatio (引き出す) ということだからなのでしょう。そのため、先生と生徒は並列関係にあります。
古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、アテネの街角に立ち、若者にさまざまな質問を投げかけ、若者の信じる考えを正しいものと仮定しながらさらに質問を続け、自分の説の間違いを若者自身に気づかせる教育法をあみだしました。これは「産婆術」ともいわれ、まさに「引き出す」という教育の原点になっているのです。
イタリアの幼児教育者、実践者として有名なモンテッソーリ女史の「子どもは、私たちの先生です」と、幼児からいつも学ぼうとする姿勢が教育理論の根底にあるのも、まさにこのことを意味しているのにちがいありません。
子どもの言葉や行動、心や感情の動きをしっかり把握して、よいところを引き出し伸ばしていく──母子関係を、これまで考えられてきた上下関係から、ほんらいの並列関係に立場を変えて、わが子から学ぼう、よいところを引き出してみようと、肩の力をぬいて、日々子どもと接していきたいものです。