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クールベ 「パイプをくわえた男」

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髪をぼうぼうと長く伸ばし、あごのまわりに濃いひげをはやした若い男が、パイプをくわえてこちらを見おろしています。顔はゆううつそうですが、自信にみなぎっている感じがします。これは、「写実主義」 (英雄や貴族が活躍するような歴史画、天使など想像する宗教画などを描くのでなく、自分が生きている時代の現実を、理想化せずにありのままに描く) という画風を標ぼうしたクールベが、28歳の時に描いた自画像です。クールベは自画像をいくつも描いているため、この絵は 「パイプの男」 と呼ばれています。

クールベは、1819年にフランス東部にある農村オルナンに生まれました。父は豊かな地主、母は代々法律家の家系でした。近くの町にある王立の中学に入り、勉学のかたわら、幼い頃から絵が好きで、地元の画家に師事したりしていました。やがて、21歳のとき、両親の勧める法律を学ぶためにパリにやってきました。でも、絵画への関心があまりにも強く、いつのまにか本格的な画家になろうと決心、ルーブル美術館で名画の模写をしたりしました。特に心酔した画家は、ティツィアーノ、ベラスケス、ルーベンス、レンブラントらだったようです。

そして23歳で、画家の登竜門ともいうべき官展(サロン) に出品した 「黒い犬を連れたクールベ」 が入選すると、オランダを旅しました。そこで目にしたレンブラントやフェルメールらの絵にいたく感銘、刺激されて、故郷のオルナンの石切人、埋葬にむかう村人など、当時フランスではあまり描かれることのなかった、ふつうの市民や村人たちを数多く描くようになりました。

1855年、パリで万国博覧会が開かれることになり、クールベは 「オルナンの葬式」 「画室のアトリエ」 という自信の大作2点を出品したところ、拒否されてしまいました。腹を立てたクールベは、博覧会場のすぐ近くに小屋を建て、「写実主義・クールベ展」 という大看板をかかげた個人展覧会を開きました。これが大評判になり、その名は海外にまで広まりました。

クールベには、生来の闘争的な反骨精神を発揮することが多く、1871年にパリに創られた世界最初の労働者政権である 「パリコミューン」 にも参加しました。しかし、コミューンが倒れて新政府が誕生すると、クールベは逮捕されてスイスに亡命、5年後の1877年の大晦日、フランスに帰ることなくその地で亡くなってしまいました。

しかし、クールベの掲げた 「写実主義」 は、現実そのものがもっている力強さや美しさを表現したことで、次の時代の印象派の画家たちに影響力をあたえ、近代絵画の道筋をしっかり示したと高く評価されています。

投稿日:2008年06月05日(木) 10:53

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)