たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 35]
ある山奥に一つの村があり、その村の裏山に大きな虎がすんでいました。雪がたくさんふってきたため、虎の食べものが何もなくなってしまいました。
ある冬の夜、虎は、食べものをもとめて、のそりと村のほうへ下りてきました。ある家に近づくと、中から子どもの泣き声が聞えます。いったい、何を怖がっているのだろうと、虎は窓の下にかがんでじっと耳をすませました。
「もう泣くのはおやめ。だまらないと、恐ろしい山猫がくるよ!」 と、母親がいいました。でも、泣きやみません。するとこんどは、「大蛇がくるよ!」 といいました。ところが、子どもは前よりもっと大きな声で泣いています。虎は、(何とまぁ強い子どもだろう、山猫も大蛇もこわがらないで泣いている) と、感心してしまいました。
その時、母親が 「もう泣くのはおやめ、虎が窓の下に来ているよ! 」 と、こわい声でいいます。虎は見つかったかとギクリとして、もっと身体を小さくつぼめました。でも、子どもはまだまだ泣き続けています。(この強いワシさえ怖がらないとは、いったいどんな子なんだろう) と、虎は少し不安になりました。
「さぁ、もう泣きやみなさい、干し柿ですよ」 という母親の声がすると、今度は、子どもが泣きやんだのです。
虎はもうビックリ。もう、家の中をのぞくどころではありません。(虎より強い干し柿というヤツは、ワシよりずっと強いに違いない) と、すり足、さし足、しのび足で、こっそり山へ逃げ帰りました。