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出かせぎ下男とおかしな約束

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 27]

むかしあるところに、何でもテキパキとやるタイプの兄と、おっとりとした性格の弟の兄弟がいました。家は貧しく、ふたりいっしょだと暮していけないので、ひとりが出かせぎをして、かせいだお金を家に送ろうということにしました。

まず、兄さんがある村の金持ちの家に行き、下男として雇ってくれないかと頼みました。すると、金持ちは、こんなことをいいました。「雇ってあげてもいいよ。ただし、最初のカッコウが鳴く春までは、必ず働くと約束してもらいたい。その間に、おまえさんがただの1度でも腹を立てたら、罰金として、わしに100万円払わなくてはならない。もしお金がないなら、5年間はただで働かなくてはならない。そのかわり、わしの方も、1度でも腹を立てたら、おまえさんに100万円払う。こういう条件でどうだ」。兄さんは、ちょっとびっくりしましたが、腹を立てなければいいのだし、相手が腹をたてたら大金がもらえるのだからと、この条件で働くことにしました。

翌日の朝早く主人は下男を起こし、大きな草地に連れて行きました。そして 「明るい間はこの草を刈っておくれ。家には暗くなってから帰ってくるんだよ」 といいました。下男は夕方遅くまで草を刈り、くたくたに疲れて家に帰りました。

ところが、主人は 「明るい間は草を刈れといったはずだぞ。今夜は月が出ていて、まだ明るいじゃないか」 といいます。下男は腹が立ちましたが、そういったら大変です。しかたなく、「いや、怒ってなんかいません。ちょっと疲れたんで、休憩に帰っただけです」 と、草刈りにもどりました。それから月が沈むまで働き続けましたが、何ということでしょう。今度は太陽が昇ってきたのです。下男は歯をくいしばって草を刈り続けましたが、疲れすぎて倒れてしまいました。

絶望した下男は、思わず叫びました。「あの、いじわるじじい! 畑も金もくそくらえだ!」

こういったとたん、主人が姿をあらわしました。「とうとう腹を立てたな。さあ、約束を実行してもらおう。100万円か、5年のただ働き、どっちにするのかな」。下男はこまってしまいました。100万円のお金なんて、もちろんありません。そうかといって、こんな男のところで5年も働くことなどできっこありません。しかたなく、少しずつ分けて払う約束をして、すごすごと家に帰りました。

この話を聞いた弟は、「こんどはおれが行って、そのインチキ野郎をとっちめてくる」 と、金持ちの家の戸をたたきました。働かせてくれとたのむと、金持ちは、兄さんの時とおなじ条件を持ち出しました。ところが弟は、それじゃ少なすぎるから、200万円の罰金か、10年間のただ働きにしようといいました。金持ちは大喜びで、さっそくその約束で、弟は働くことになりました。

翌朝、日が昇っても弟は起きようとはしません。主人は 「いつまで寝てる気だ」 といってゆり起こすと、「おや、怒ったんですか」 といいながら、やっと頭を起こしました。「怒っちゃいないよ。もう仕事に出かける時間だといいにきただけだ」 と主人。「じゃ、いま着物を着てきます」 と、もったらもったら着替えをしています。主人はまたいらいらして 「おーい、早くしろ!」 「あーれ、怒りましたね」 「いいや、遅くなりはしないかと心配しただけだ」

こうして、ふたりが草地に出たときは、日が真上に昇っていました。下男はあたりを見まわして、「みんなお弁当を食べていますよ。こちらもお昼にしましょう」。主人もしかたなく、賛成しました。ところが下男は、またもゆうゆうとご飯をぱくつき、やがてお腹が一杯になると 「ちょっと一休みしましょう」 と草地に寝ころんだかと思うと、夕方までぐうぐう眠っていました。

「とんでもない下男を雇ったものだ。草刈りがおわってないのはウチだけだ」 と、ぶつくさいう主人の声を聞くと、下男はむっくり起き上がって 「怒っていますね」。「いやいや、もう暗くなったから家にもどろうといっただけだ」

こんな調子で下男が2、3か月もいるので、主人は腹の立ち通し。カッコウの鳴きはじめる春まで、とても怒らずにいられそうもないと思いはじめました。でも、200万円の罰金を払うのなんか真っぴらです。そこで、罰金を払わずに下男を追い出す計略を考えつきました。おかみさんを木に登らせ、カッコウの鳴きまねをさせる方法です。

主人は下男にいいつけて、狩のしたくをさせ、ふたりで森に出かけました。おかみさんは、下男がやってきたのを見ると、ほんものそっくりに、カッコウ、カッコウと鳴きはじめました。主人はうれしそうに 「聞いたか、カッコウが鳴いているぞ。これでお前の仕事は終わりだ」。けれども、下男は主人のたくらみに気がつきました。「冬にカッコウが鳴くなんて話は聞いたことがありません。ひとつ、あいつを撃ち落として、どんな鳥か正体を見てやりましょう」 と、銃をかまえて、ねらいを定め、今にも引き金を引きそうなそぶりを見せました。

「きさまなんか、くたばってしまえ。もう、顔も見るのもいやだ」。「とうとう、怒りましたね」 と、下男はにやりと笑いました。「ああ、怒ったよ。怒ったとも。罰金は払ってやるから、とっとと失せろ!」

「それでは、この約束は終わりにしましょう」。こういうと下男は、おかみさんカッコウを木から助けおろしてやりました。

☆〜〜〜〜〜〜〜〜★〜☆〜★〜〜〜〜〜〜〜〜☆

本年のご愛読をありがとうございました。
明日より、年末年始の休暇に入ります。
新年は7日からスタートする予定です。
皆さま、良いお年を !

投稿日:2007年12月28日(金) 09:30

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コメント (1)

ヘンリーおじさん:

エデイさん、
お疲れ様でした。
来年も楽しいブログを、よろしくお願いいたします。
そして、良い新年をお迎えください!

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)